ものづくり工場の問題と解決事例 
  専門分野
 
ものづくりのマネージメントについての講義 
  ものづくり企業には、その企業独自の技術を持っています。誰も持っていない技術、その技術が優れているほど他社との競争に優位に立てる企業といえます。このような企業固有のものづくり技術は製品を生み出す力であり、その企業が存続していくための技術と考えています。
  一方、生産管理や品質管理などは、企業が儲かる、利益を大きくするための技術であるといえます。効率的に、ムダなくものづくりを進めるためには、管理技術を活かしていかなくてはなりません。また、ものづくりの問題を解決する手段としても管理技術の手法が必要です。このように、「固有技術」と「管理技術」は企業にとって重要な技術であるといえます。
  福島技術士事務所は、ものづくり工場において、管理技術を活用していくためにそのお手伝いをしています。


 1.固有技術と管理技術
 ものづくりの企業の固有技術の具体的なものは、その企業独自が持っている技術、すなわち「ものづくりの技術」です。管理技術はどの企業にも共通する技術といえますが、運用していく具体的な内容は企業により異なってきます。このように、固有技術と管理技術は車の両輪のように企業の中に存在しています。下の図はものづくりの企業の概念図を示したものですが、記載の固有技術や管理技術の名称は一部分のみ記載しています。
               ものづくりの固有技術と管理技術
固有技術と管理技術の内容


 どんな企業(ものづくり企業以外の例えば、販売会社、病院、学校、行政機関など)でも,その企業独自の固有の技術を持っています。そしてそれを活かしながら経営していく管理技術も同様です。しかし、病院、学校、行政など公的企業(団体や行政機関も)では、固有技術(=商品)の競争がなく管理技術を活かす余地が少ないように思います。それは、赤字や経営が悪化すると、税率や負担率を安易に上げてそれを補てんするという救済システムがあるからです。いわゆる「親方日の丸」です。人口減少や超高齢化社会を迎えて、負担ばかり求める行政機関など公的機関、補助金に頼る独立法人などに競争原理を導入することがこれから必須と思います。

 学校、大学、学習塾  スーパーのレジ  市役所、区役所

 固有技術:
 近くのかかり付けの病院のいわゆる「固有技術」というものについて考えてみました。
・病気の診察、診断 ・手術
・検査(X線、CT、MRI,、胃カメラなど) ・看護 ・リハビリ ・投薬
・その他専門とする病院によってさまざまな技術があります。この病院の技術が高く、病気が治癒していくと評価も高まり、信頼できる病院ということになっていくと思います。
 しかし、技術力が優れていても、経営がうまくいっていないという事例はよく聞きます。経営管理すなわち、管理技術の活用がうまくなくてはなりません。
  管理技術:
 管理とはマネージメント(Management)といわれるように経営の効率的な運営を行う手法です。ですから、経営の幅広い分野に管理技術が活かされています。本図に示す管理以外には
・事務管理 ・労務管理 ・財務管理 ・資材管理 ・販売管理 ・日程管理 ・安全管理など
さまざまな管理手法があげられます。


2.技術支援の内容
生産管理
 製品や部品を効率的にムダなく作っていくためのいろいろな手法を活かしていくのが生産管理です。中小企業の効率的な生産システムの再構築や問題点の改善。生産性向上対策、組立工程の改善や問題点の解決。工程能力問題の改善などが主たる活動です。


品質管理
 ものづくりの作業や工程のなかで、製品の品質は、常に変化していることを先ず知っておくことです。その製品の品質を確保していく手法が品質管理です。製造品質の向上、工程検査の改善、工程能力の改善、不良低減、クレーム対策や現場での問題点の調査と改善などに取り組みます。
 
製造コスト低減
 製造コストの低減は、ものづくり企業の最も要求される課題です。設計、製造、購買部門など各部門のコスト低減活動が求められます。コスト低減の手法として、VA、VEの実践、調達品や購買品のコストテーブル、ベンチマークの活用などがあります。さらに、原価計算や固有技術の基礎的な知識教育も課題です。


現場管理
 ものづくりの力の源泉は、現場の力にあると考えています。現場を強くすることが先ず必要です。第一線監督者の現場管理能力向上、監督者教育、現場改善手法、部下のOJT訓練計画と実施、現場におけるQC教育と実践活動の支援などを行ないます。


外注メーカー支援
 外注メーカーは、発注企業の工場の一つです。したがって、社内工場と同じ視点で取り組む必要があります。社内工場と外注メーカーは密接につながっていますから、外注メーカー問題点の改善解決や外注企業の生産性向上、コスト削減、納期遅れなど問題点の解決に取り組んでいきます。



海外工場計画と工場建設
 海外工場建設のための現地調査から海外工場の事業計画、工場建設までの技術支援を行ないます。

 海外工場建設
海外進出支援
 海外生産を行なうには、事前にいろいろな調査や準備事項があります。海外生産を成功させるためには、海外生産に経験と知識を有する専門化の協力は欠かせません。海外生産に関する支援例えば、技術協力契約、ロイヤルティなどに関する事項、海外事業計画などは重要な検討事項です。
 海外生産で問題となる自社の技術の流失をどうのように防ぐかは、重要な問題点の一つです。
 海外自動車組立技術支援
 海外自動車メーカーの品質向上支援や新車種の生産準備(設備計画や組立治具計画など)に関する技術支援を行なっています。


自動車車体組立
自動車組立技術支援
 自動車組立技術の中で、専門は車体組立(Body Assembly)技術です。組立治具、検査具計画や設計支援。組立品質向上、設備計画、工程計画や外注メーカー指導などを行ないます。車体組立はプレスパネルの溶接が中心ですが、同時に溶接ロボットによる溶接、自動化ラインとなっています。さらに、新車開発段階でのSE(後述)や車体品質改善にも取り組んでいます。

 製品組立技術
 製品の組立について、生産技術的な側面から考えたいと思います。製品はその機能や性能を発揮させるために、多くの必要な部品から構成されています。この部品をどのように設計するか、又はどのように組立てていくか、良い製品を作るためには、いろいろな技術的、コスト的な課題があります。


 軽薄短小
 この言葉は、昔流行った言葉です。ものづくりの新製品開発で求められる方向は、より軽く、より薄く、より短く、より小さくと言われています。これは、製造工程でも同じことが言えます。この反対が重厚長大になります。
 現在、自動車では燃費向上のため、車体の軽量化が課題となっています。そのため、樹脂やアルミ材の部品が増えつつあります。今後、炭素繊維の採用部品などの新材料の部品開発が一層進むと思っています。 

3.科学的管理法.
 「科学的管理法(The Principles of Scientific Management 1911刊)」は、フレデリック W. テイラー(1856-1915)の著書です。この科学的管理法について初めて記憶にあるのは、産業能率短期大学生産能率科の学生であった時でした。この著書を翻訳をされた上野陽一(1883-1957)先生の残された教えから多くのことを学びました。当時は一介の現場の技術者の卵に過ぎなかったのですが、もっと「生産に関するマネージメント」を勉強をしたいと入学しました。
 (注)上野陽一先生の翻訳した「科学的管理法」は手に入りにくいと思われるので、最近出版された「新訳科学的管理法」有賀祐子訳ダイヤモンド社2009年発行版があります。

3.1 科学的管理法は「三方よし」の恩恵をもたらす
 「三方よし」はよく知られた近江商人の商売の哲学として有名です。これは、私の好きな言葉で、仕事の理念でもあります。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」は、現在でも大切なことです。テイラーもその著書の中で、これと同じような考えであることが説明されています。すなわち、「科学的管理法は、従業員、企業、国や世間の人たちに恩恵をもたらす」ものであると述べています。科学的管理法の採用によって、
 ・働き手の生産高が上がり、賃金を増やして本人の夢を実現することができる
 ・雇用主は、競争力も高まり、市場の拡大につながり、利益が右肩上がりとなる
 ・企業を取り巻く人々や世の中全体が大きな恩恵を受け豊かになっていく
今からおよそ100年前に、当時は成り行きで仕事をしていた労動者の作業に着目して、生産性を高める手法を研究して実践してきたテイラーの科学的管理法は、今でも大変貴重な教えであると思っています。そして、当時の労動者の地位を高め、豊かな生活が送れるように押し上げたものは、科学的管理法の手法の結果であると思います。

3.2 「作業時間」と「作業動作」の研究
 作業者の作業内容のチェック
 テイラーは労動者の仕事を目に見えるようにするため、作業の「時間研究」に取り組みました。ストップウオッチを片手に作業の時間測定とその時間短縮方法を研究しました。作業時間と作業動作は表裏一体の関係にあります。「時間を短縮」するためには、「動作の改善」が欠かせませんが、テイラーは同時に作業に使う道具の研究や作業者の訓練や指導にも着目しました。
 一方、「作業動作」に関心を持ったのはギルブレス(Frank B. Gilbreth 1868-1924)でした。テイラーの科学的管理法にも関心を持ったギルブレスは、レンガ積みに応用しようと思い立ったということです。かって、レンガ積みの作業経験のあるというギルブレスは、レンガ積み作業を分析して動作の改善に取り組みました。そして、その成果を「科学的動作研究」と名付けました。(前掲「新訳科学的管理法」有賀祐子訳ダイヤモンド社刊)

3.3 作業動作に注目したギルブレス
 
ギルブレスによるレンガ職人の動作分析とその改善によって、時間当たりのレンガ積み個数を3倍にしたという具体的な内容はここでは省略しますが、大変興味のあるのは次の点です。それはレンガ積み職人の動作を改善して効率を上げるには、、レンガ積み職人の作業を分担して賃金の安い職工の協力を得るようにしたことです。
・モルタル工は、レンガ積みに最適な粘度のモルタルを作り供給する。
・レンガ運搬工は、レンガを運搬、選別し、レンガ職人が取りやすいように並べる。
・足場工は、レンガ積み作業が楽に出来るように足場を調節し、組立と移動をしていく。
・マネージャーは、それぞれの作業者の適性をよく知り、仕事を与え、支援するほか、必要な訓練を行い、より高い技能を身につけさせる。
 このように、一人のレンガ職人の作業動作を分析して、レンガ積み個数を大きく増加させるには、専門職工たちの協力があってこそであるということです。
 レンガ積み作業の内容を分析して、それぞれの作業を専門とする職工と分業してレンガを積み作業の効率をあげることに着目したことは、当時としては画期的なことであるといえます。

 ギルブレス:
 テイラー同じ時代のに科学的管理法を作業の動作について研究したことでよく知られています。ギルブレスはレンガ積みの仕事をした経験からレンガを積むために何回も体を曲げ伸ばしをすることを何とかしたいと思い動作の改善に取り組ンだということです。この動作研究がその後のサーブリック(ギルブレスの名前を逆に綴った呼び名)という動作分析をまとめるとともに記号化しました。これが科学的な動作分析と改善の始まりであったと思います。

3.4 シャベル作業の研究
 シャベルの作業方法の研究
  テイラーが働いていた当時のベスレヘムスチール社では、大勢の労働者が鉱石などを貨車からシャベル(Shovel:ショベルともいう:)を使って積み降ろしをしていました。この作業の生産性を上げるには、どうすればよいか、テイラーのシャベル作業の研究が行なわれました。その結果、シャベルにおよそ21ポンド(約10kg)をすくうのが一日の出来高が最大(59トン)となることが分かりました。さらに、作業の動作時間を測定して標準的な1日の作業量を決定しました。これをタスク(Task:課業と訳されています)と呼んで、これを管理することにしました。もちろん、テイラーは労動者が過重労働にならないよう検討し、必要な休息時間を設けるなど配慮したことはいうまでもありません。
 テイラーは、シャベル作業の内容(鉱石、ズク:銑鉄、石炭など)に応じて、シャベルの形状や大きさを工夫して、タスクが達成できるようにいろいろなシャベルを準備しました。シャベル作業の標準化や使用する道具も工夫して生産性の向上に努めました。

 タスク(Task)
 これは、作業量の目標ではなく達成すべき基準とする量です。したがって、ノルマ(Norma:ロシア語)ともいえます。テイラーは、タスクを超える仕事をした者は、賃金を割り増し、達成出来ない者は減額しました。タスクの未達が続くと首になりますから、一生懸命に働くことになるという仕組みです。日本語のノルマの達成という言い方が実感があると思います。
 タスクは熟練工が達成出来る量であり、未熟練工や新人工がこなせるようなレベルではありません。 

3.5 標準時間の設定
 テイラーは、作業時間をストップウオッチで測定しました。作業者には一流の工員(熟練工)を選び、その作業を分析してムダな作業を改善し、新しい作業方法を工夫するなどして標準的な作業方法を設定しました。この作業方法に基づき作業時間を測定して、「標準作業時間」を設定しました。これにより、必要な従業員数、作業計画や日程計画など計算ができるようになりました。それぞれの作業の標準作業時間によって、企業の生産計画できるようになり、このような現場の科学的管理手法が「生産管理」として確立されました。
 ストップウオッチによる時間測定は現在でも行なわれていますが、いろいろな弊害や問題があります。標準作業が確立された作業は、「既定時間設定法」(Predetermined Time Standard System:PTS)による時間設定法があります。標準時間の設定は、生産管理では必須の仕事といえます。なお、PTS法によるよる時間設定は、専門的な知識が必要になります。

 標準時間:
 
標準時間の算定にはいろいろな手法があります。よく使われるのは作業時間を測定する「ストップウォッチ法」ですがレーティング(Rating)など技術的な手法が必要です。さらに専門的な技法であるPTS(既定時間設定法)が使われます。WF(Work Factor)法はその代表的な技法です。PTS法は、作業時間を測定するのではなく、作業動作を細かく分析して、それぞれの動作時間を設定していく手法です。作業手順や作業条件などから、時間基表にもとづき作業時間を設定できるようになっています。

3.6 仕事の成果測定と評価
 企業で働くそれぞれの従業員の仕事は、一定期間に上げた「成果」を測定します。大きな成果を上げた者は高く評価され、賃金も他人より大きく上がります。上司は、部下の成果が上がるようにいろいろな支援(指導や教育訓練など)をして、各人の成果をより高めるようにしていくことが求められます。これはテイラーの述べていることですが、今でもこの取り組みは変わっていません。成果は数値で測定できる成果指標(例えば本人の仕事のKPIなど)を取り入れることを考えていくことが必要です。
 かって、数人の部下を持った経験から感じていることは、この成果の公正な「評価」が大変重要ですが同時に難しい面があると感じました。さらに、関係する人たちも含めて公平な評価を行なわないといろいろな不満が噴出してきます。実力主義の現代では、特に考えなければならないと思います。仕事は一人ではできない。まわりの人たちの協力や支援があってこそ自分の成果を高めることが出来るものであると思っています。

業績評価の考え方の例
 
 企業で働く従業員の業績評価は大変重要な課題です。ここでは、要点だけ記載しますが一番重要な課題は、「評価基準」です。社内の仕事(職務や職種などと呼ばれている)の内容に応じた業績評価(数値的な評価)基準とその評価が公正、公平に行なわなければなりません。さらに、評価者(上司、管理者など)の主観が影響を及ぼさない仕組みをつくらなければなりません。

4.ワークデザイン
 ものづくりにあたって、いろいろな課題の改善やシステムの構築などを行う場合、検討しなければならない手法にワークデザイン(Work Design)があります。これはナドラー(G.Nadler)が考案したものであるといわれていますが、経営工学ではよく.使われているものです。

4.1 あるべき姿を求める
 ワークデザインは、理想的な工程設計や標準作業の設定などのほか日常の作業改善の場合にはよく用いられています。企業のおかれている制約(人材、お金、時間的なリミットなど)、法規的な規制、世界的な環境問題などさまざまな課題がある中で、理想的な、あるべき姿やありたい姿を描いて、どのように解決(達成)していくかが問われています。

4.2 フォア―キャスト
 一般的な取り組みは、過去の実績や経験をもとに次の年度の具体的な取り組みを計画し、実施していくやり方が多いと思います。このような取り組みをフォアキャスト(Forecasting)と呼ばれています。企業では中期計画を基本に、年ごとに順次予定を立て実行していく取り組みです。この場合は、実績がありますから次の手が打ち易いといえます。この取り組みでも、目標とするのは、理想的な姿、あるべき姿を目指していることはいうまでもありません。
 ただ、フォアキャストは、過去の実績や現状の制約にとらわれて本来のあるべき姿から外れて、安易な目標にずれていく恐れがあります。また、何か大きな問題や制約などに突き当たると、そこで停止するようなことも起こります。したがって、本来のあるべき姿、理想的な姿になかなか到達できないという課題が生じてくることです。

4.3 バックキャスト
 バックキャスト(Backcasting)手法は、このフォア―キャストの逆の手法です。将来のあるべき姿の実現すべき時期を起点として、現在の時点に向かって何をすべきかを考えて行動を起こすことです。具体的には企業の中期計画や事業計画などによって、順次未来から現在の時点向かって実行計画を立案してそれを実行をすることにあるといえます。
 ここで、具体的な例を挙げて説明をしてみたいと思います。次の図は、企業の中期計画をバックキャストで計画していく例を示しています。これらの計画は、現時点で作成することになります。すなわち、令和9年度の中期計画は、令和9年に作成するのではなく、現在の令和3年に作成することを意味しています。同じように令和6年度の中期計画も現時点で作成します。

バックキャストの取り組み例

 図に示すように令和12年度に達成すべき姿、例えば、「製品のCO2排出量を50%削減する」という目標に対して、令和9年度には、それを達成するための具体的な実行計画(ここでは、中期計画と呼びますが、事業計画や経営計画など呼び方は企業によりさまざまです)を作成することになります。令和6年度には令和9年度の目標を達成するために必要な計画を作成していくことになります。同じように令和3年度には、令和6年度の目標を達成するための計画を作成の上実施していくことになります。
 なお、フォアキャストは、従来の延長線である過去の実績を基準にして令和3年度の計画を作成していくことにあります。注意しておきたいのは。令和3年に令和6年度の計画は作成はしません。ここに大きな違いがあります。
 このバックキャストで作成された令和3年度の中期計画を実施していくためには、現状と大きな乖離があるはずです。ものづくり企業の現時点における企業の抱える問題や課題を十分に分析して、どのようにして取り組むかが現在の仕事になるのです。企業の持つ人材、技術、製品、生産、DXなどさまざな視点から大きな変革を推進しなければならないといえます。




(改定:2023.6.11)


 サイトマップ