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1.車体組立とは 2.溶接ロボットの採用 3.車体品質は車の品質の土台 4.SEの展開 5.プレス金型 6.車体組立治具 7.海外工場における技術支援 8.製品組立 9.リコールや自動車に関する話題 9.1 VWディーゼルエンジン排気ガス規制不正問題 9.2 習熟~大型スキーバス転落事故に学ぶ~ 9.3 自動車の軽量化が進む 9.4 タカタ社の経営破綻から思うこと 9.5 電気自動車と無人運転の時代へ 9.6 日産自動車の無資格検査員問題に学ぶ 1.車体組立とは
車体組立工程のスポット溶接は、車種や車の大きさにより異なりますが、およそ3000点前後になります。新入社員時代の現場実習でいろいろな溶接作業を経験しました。スポット溶接ではその作業の速さを同僚と競ったものでした。また、フラッシュバット溶接も体験しました。ホイールのリムの溶接で、鋼板をローラーで丸めその端面を溶接して丸い輪にしてリムに成型していました。仕事を通じていろいろな溶接作業をした経験は大変貴重な体験でした。なお、MIG溶接では(炭酸ガス:CO2)を使った溶接が一般に使われています。したがってCO2溶接ともいいます。 また、車体軽量化のため、鋼板以外のアルミ、樹脂、炭素繊維などの軽量素材がさらに採用されてくると思っています。車体組立もこれから変化の時代を迎えると予想しています。 2.溶接ロボットの採用 作業者が行っていたスポット溶接を本格的にロボットに置き換えたのは、米国のGMで当時の生産車種ベガ(VEGA)の車体組立工程であったと聞いています。ロボットの名前は油圧式の「ユニメイト」で米国ユニメ―ション社が製作したものです。昭和43年(1968年)11月、A社の工場で当時のユニメーション社ハイデラバーガー社長を招聘して技術講演が行われました。この時は一介の技術者でしたが、「パレタイジング」(Palettizing)という単語が今も記憶にあります。 以後、A社はロボットの採用に大きく舵を切ることになっていきました。さらに、A社の新年始業式で当時の社長が「米国のGMを追い越せ」と号令をかけた記憶もあります。ただ、当時の資料によると、国産の溶接ロボットは、全く使い物にならず、技術者はラインで使えるようにするために大変苦労しました。本格的に溶接ラインに採用になるにはおよそ2年かかりました。A社が車体組立ラインに採用したのは、昭和46年6月になりました。このようにロボットが使えるようになったので、日本でも産業用ロボットが注目され、その後雨後のタケノコのように多くのロボットメーカーが誕生しました。
3.車体品質は車の品質の土台
4.SEの展開
5.プレス金型
一方、車体に使用する鋼板は、0.6ミリ~3.2ミリまでの冷間圧延鋼板が大半です。この鋼板の品質がパネル精度に大きな影響を及ぼします。特に板厚のバラツキ、時効硬化などが問題となります。なお、最近では、鋼板に代わって、アルミ板がボンネット、ドアーなどに採用する車種が増えてきました。ボデ―の軽量化がどんどん進んでいます。これからも車体軽量化のためにアルミや樹脂部品の採用もさらに増えてくるものと思われます。 6.車体組立治具 プレスパネルを組合わせしていく組立治具は、車体精度や生産性を大きく左右します。自動車各社とも治具構造や組立方式の開発に知恵を絞っています。この組立治具は自動車会社にとって、重要なノウハウの一つであるといえます。さらに、現在では車体溶接はロボットで行うので、ロボットの作業条件に合わせた治具仕様となっています。一番の違いは、作業者の場合は、治具や部品及び作業状態を目で見る必要がありますが、ロボットはその必要がなくその制約がありません。 組立治具の仕様は、プレスパネルやサブ組立部品を一つずつ設計寸法(三次元寸法)通り位置決めするという基本は変わりありません。このために、必要とする位置きめの穴(Locate Hole)、位置決めするパネルの形状などを設計者やプレス部門と調整します。新車設計段階でSEを行いながら治具仕様と治具設計を並行して進めていきます。 7.海外工場における技術支援
8.製品組立 自動車をはじめとする製品の組立については、別項の「製品組立」を参照してください。 9.リコールや自動車に関する話題 9.1 VWディーゼルエンジン排気ガス規制不正問題 最近西ドイツVW社のディーゼルエンジン排気ガス測定ソフトの不正問題が、新聞テレビで取り上げられています。自動車技術者としてこれは驚愕する内容です。排気ガス検査さえクリヤーすればよいというVW社の技術者の考えは理解困難です。 自動車は、組立が完了すると各種の最終検査が行われます。その一つは台上検査装置(Free Roller Tester)でエンジンをかけ走行状態で各種の検査を行います。この時行う排気ガス検査に不正があったいうことです。この検査は回転するローラー上で行いますからハンドルは操作しません。この状態を悪用して排気ガス検査の時(すなわち、ハンドルを操作しない場合)のみ排気ガス装置をフル稼働させるようにして、、通常の走行時(ハンドルを操作する)はこの装置の稼働を下げるといったソフトを組み付けたということです。この結果、お客さまが運転中の排気ガス規制値は守れないことになります。排気ガス装置がフル稼働すると、燃費や走行性能が悪くなることがその理由だといわれています。 VW社はこの不正はなかなか見つけられないと考えたのでしょうか?VW社はその存立の厳しい立場に置かれることになりました。 ものづくりで注意したいのは、製品の検査時に合格であっても、お客さまが使用している時も製品の品質が維持されているかを確かめる必要があります。しかし、なかなかそれが出来ていない場合が多いと思っています。想定外の使用による事故、材料や部品の劣化による異常の発生、、使用環境変化による不具合や純正部品を使わない事故や故障などが起こっている事実を知っておく必要があります。(2015.10.12) 9.2 習熟~大型スキーバス転落事故に学ぶ~ 2016年1月16日長野県の急カーブが多く、、急坂のある碓氷バイパスで、運転を誤った大型バスが転落して十数名の死者や多数の重軽傷者が出ました。事故のニュースを聞いて先ず感じたのは、「運転の習熟」や「運行管理」が不十分ではないかと思いました。ものづくりでも大事なことは、熟練した作業者、実施する作業の習熟です。初めて走行する道路の上夜間運転は、十分な「習熟」がないと事故に直結する恐れがあるといっても過言ではないと思います。さらに、決められた走行路ではなく、予定外の道路を通行していたことも重要なポイントです。予定外のコースを取るときは、本社の運行管理者と事前に連絡し承認を求めるとか、予定外の道路を走る理由などを報告や説明することも必要です。現場で異常事態が発生したとき、管理者や監督者に報告して指示を仰ぐよいった取り決めをしておくことは常識です。特に、走行道路は、交通渋滞や事故、天候による通行止、気候不良による通行困難(豪雨、大雪、凍結など)な場合もありますから、常に本社側で運行管理者がバスの走行を監視するような取り組みが必要ではないでしょうか?大勢の命を運ぶ大型バスの長距離運送は、もっと安全、安心な運送を行うように取り組むことを望みたいものです。その他にも今回の事故は、いろいろな課題を浮き彫りにし、改善を必要としていると痛感しました。ものづくりでいう4M、すなわち、Man(運転手)、Machine(大型バス)、Material(走行道路)、Method(運行方法)について検討する必要があると思います。(2016.1.21) 9.3 自動車の軽量化が進む 自動車の燃費向上の取り組みが一層激しくなっています。そのため、自動車の軽量化の取り組みが盛んに行われており、その成果の発表も関係者の注目を集めています。軽量化の一般的な手法を列挙しますと a.部品点数を減らす 部品の一体化、形状変更、材質変更などが主な手段。その他、部品製作工法の変更も検 討する。 b.構造(設計)を変える 製品構造、強度、耐久性などを見直して、部品形状、使用材料、部品の組み合わせなど を検討して軽量化を図る。 c.新材料の採用や接着工法の採用 例えば、従来より熱や衝撃に強い樹脂や強度部材にアルミ材、外板部品に炭素繊維強化樹脂(CFRP)など採用が一段と増えています。ただ、コストが高いのが難点ですが、自動車の軽量化は一段と進展していくものと思います。さらに、このような軽量化を設計する中で、構造用接着材や接着技術の向上が決め手になると思います。特に異種材料の接着組み立ては目を見張るものがあります。 (2016.11.4) 9.4 タカタ社の経営破綻から思うこと 6月26日、タカタは、一兆円超える負債を抱えて破綻したと報じられています。 その原因となったのは、エヤバッグの莫大なリコール費用の負担です。ここまでに至ったのは、専門技術者として感じるのは、自社製造のエヤバッグの「製品品質に責任を持つ」という基本的なことが全く欠けていたのではないかと思っています。2004年、アメリカのホンダ車に組み込まれているエヤバッグが異常破裂したという品質クレームが起こってから、タカタは適切な対応を取っていなかったようです。また、タカタはエヤバッグを搭載している自動車メーカーにも問題があると考えていた側面も指摘されています。品質クレームを軽るんじていたのかもしれません。したがって、原因の追及と迅速な対策が取られてこなかったことが、今日を招いたといえると思います。 エヤバッグの不具合の要因の一つに挙げられてのは、エヤバッグを急速に膨らませるために、使われいる火薬の劣化ではないかということです。自動車は高温極寒多湿などといった過酷な環境で使われるため、使用されている材料、部品の劣化は常に問題となります。 製品は、3年5年と使っているうちに、大きな力のかかる部分には疲労破壊が起こります。回転部分は摩耗して抵抗も少なくなりますが、やがて振動が大きくなり、異音やボルトナットの緩みや場合によっては部品に亀裂が発生してきます。回転部分の給油が途切れると加熱問題も発生します。化学部品は、材料の化学変化も起きるかも知れません。このような劣化は避けられない現象ですから、設計段階での対策が必要になります。 もう一つ考えておくべきことは、製品の欠陥による責任すなわち「製造物責任法(PL法:Product Liability)」です。特に製品(納品する部品、材料なども含む)が人体に影響を及ぼすことのある恐れのある場合は、製造品質だけでなくお客さまや納品先からのクレームには細心の注意を払うと共に、迅速な対応をとるということではないでしょうか。 ところで、製品や部品の劣化の程度が予測される場合には、点検や部品交換を行なうのが一般的な対応です。使用年数のほか、走行距離、使用回数といった特性を考えて定期点検や交換する部品を事前に決めておくことが必要です。部品などの劣化の程度が予測が困難や未知の場合には、一定の年数経過毎に定期的な部品交換を行なうことを検討すべきです。この場合、お客さまからの情報、クレーム、販売した製品の調査や監視といったことが重要になります。 「命を守るべきエヤバッグが命を奪うことがあってはならない」という米国公聴会での発言が専門技術者として胸に刺さります。(2017.6.28) 9.5 電気自動車と無人運転の時代へ 電気自動車にやっと大きな光があたる時代がやってきました。イギリスやフランスは2040年以降はガソリン車やディーゼル車の販売を禁止するという方針を発表しました。さらに、中国では自動車の生産台数の一定の割合を電気自動車にするという規制を始めたことなどが電気自動車の開発や生産を後押しすることになってきたからです。このようなことから、欧米や日本の自動車メーカー各社が一斉に電気自動車の車種を追加したり、新規開発車を発表しています。 現在販売されている電気自動車は、一回の充電による日常使用での走行距離がまだ300km程度ということ、さらに充電するのに時間がかかること、バッテリーの軽量化、耐久性などの課題があり、これらの改良に向けて電気自動車の開発競争が一層加速して行くでしょう。 さらに、自動車の自動運転が始まると、自動車の姿や形も一変するようになると思います。ハンドルやブレーキペダルなどがなくなり、自動車そのものが大きく変わって来るはずです。大小さまざまな形の電気自動車(乗用車、貨物車)が文字通り自動で道路を行き行き交うことになると思います。 また、自動運転車の活用が高まるに従い、一般道路、高速道路もその姿や形は少しずつ変わり(例えば、高速道路上では走行しながら路面から充電できる機能を持つ)、交通ルールも当然変わってくるでしょう。そんな時代が近づいています。(2017.9.13) 9.6 日産自動車の無資格検査員の完成検査問題に学ぶ 自動車の組立ラインの最終工程で、車の完成検査が行なわれます。これは、国の法律に基づき自動車会社の「資格を持つ検査員」が検査を行なうことになっています。この検査員は組立ラインの完成車が、自動車の保安基準に適合しているかどうかを検査するものです。検査員は社内の規定で資格を持つ従業員の中から検査に従事する従業員を認定して、その業務を行なわせるようになっています。検査員は自動車整備士ではありません。国の定める資格を持った自動車検査員でなければならないことになっています。 日産自動車は、社内規定で認定された以外の従業員が完成検査を行なっていたということです。大企業に限らず中小企業でも資格を必要とする業務はいろいろあります。例えば、危険物を取り扱う作業、いろいろな溶接作業、高圧ガスを扱う作業など、そのほか、その企業で特別に定める資格があります。例えば、フォークリフトような社内運行する車や運搬車両の運転作業、設備機械の取り扱い作業、電気工事、ボイラー、コンプレッサーなどの作業や操作に関する業務など安全や特別な知識や技能を有する作業があげられます。 ISOの認証審査に立ち会ってみると、資格のない作業者がその仕事を行なっていたり、有資格者が他部署異動でその職場にはいないとか、法規で決められて資格を有する作業に社内規定で定めがないなどが見受けられました。さらに、従業員の教育訓練において資格取得計画が実行されていない、社内規定が守られていないなど問題がありました。法規や社内で定められた規則は、第一線監督者や管理者はしっかり遵守していくことは当然です。現場で働く従業員の安全を守り、製品の品質をお客さまにきちんと保証するためにも、日産自動車の問題を他山の石としたいものです。(2017.10.3)
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