ものづくり工場の問題と解決事例 
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生産性向上は工場の課題です 
 令和6年の賃金は、前年より5%前後のアップになったと発表されました。来年度も物価上昇率を超える賃金を上げていくためには、一層の生産性向上が求められています。ここでは、これからの生産性向上の取り組みについて考えたいと思います。
 中小の企業でも、一層の賃金アップを求められており、低い賃金のままでは企業で必要な従業員の確保はこれからますます困難になってきます。企業の生産性向上への取り組みは決して避けられない時代になりました。
 なお、ここで記載した内容の一部は、他の「生産管理」でも述べてありますので、記載内容が一部重複しています.。


 目次

1.生産性とは
1.1 生産性の計算式
1.2 労働生産性の向上
1.3 設備生産性向上
1.4 材料生産性向上
1.5 製造資本生産性
2.作業の効率を測定する計算式
2.1 作業能率の向上
2.2 間接時間の縮小
2.3 工数低減の推進
2.4 生産品の不良低減
2.5 生産リードタイムの短縮
3.作業効率化の推進
3.1 標準作業の遵守
3.2 標準作業の改訂
3.3 作業者の教育訓練
3.4 作業の効率化
4.機械化と自動化の取り組み
4.1 機械が製品をつくる
4.2 AIロボットの採用
4.3 自動化の技術開発
5.品質測定の自動化
5.1 完成品の検査工数の低減
5.2 加工品の測定工数
5.3 自動測定機
6.事務部門の生産性向上
6.1 業務の標準化
6.2 RPA(業務の自動化)
6.3 RPAに適合しやすい業務の事例
6.4 VBA(パソコン業務の自動化)
7.KPIの取り組み
7.1 KPIの設定事例
8.企業の生産性向上の取り組み
8.1 仕事の改革
8.2 ロボットが製品をつくる
8.3 革新的な設備投資
8.4 付加価値のある新商品開発
9.省力化投資の補助金の活用



1.生産性とは
 
 生産性向上は身の回りから始められます
 「生産性」とはどういうことでしょうか? 現場では「効率」が一般的です。生産性を表わす計算式から考えると、インプット(労働量など)とアウトプット(生産量など)の比較といえますから、現場でよく使われる「効率」や「能率」の計算と同じものといえます。したがって、「生産性を上げる」ということは、効率をよくしたり、能率を上げたりすることと同じことを意味しています。
 例えば、ボルト締める場合には、スパナで締めるよりインパクトレンチを使う方が効率がよいということになります。

1.1 生産性の計算式

 ここでは、生産性を表わす計算式について改めて考えたいと思います。一般的な生産性を示す基本式は次のようになっています。

 

 この計算式に示すように生産性を向上させるには、アウトプットを大きくするかインプットを減らすことになります。これは、生産現場の作業だけではなく、事務作業でも同じことがいえます。
 この分母と分子のデータを選択することによっていろいろな生産性の計算を行うことができます。次に一般的な計算式を示します。



1.2 労働生産性の向上
 ものづくり企業における代表的な労働生産性を示すいろいろな計算式について述べてあります。この生産性指標が常に向上していくように取り組む必要があります。

(1)作業工数の生産性
 代表的な労働生産性の計算式は、次のように示すことができます。
生産性向上は機械にまかせることがポイントです


 ここで分母の労働時間は、総労働時間、実働時間、直接作業時間などが用いられます。生産性尺度をどのように活用していくかで取り上げるデータが異なってきます。
 いずれにしても、一定の労働時間(作業工数)でどれだけの製品が生み出されたか(生産数量)を計算するものです。これは、労働時間がどれだけ有効に活用出来たかを表しています。
 ここで注意しなければならないことは、決して作業者が作業スピードを上げることではありません。作業者の工数を有効にしていくには、無駄な作業の動作を減らしたり、不良品を減らしたり、設備の故障を少なくしたりすることです。作業工数を減らしていく最も有効な手段は、作業を機械に行わせることです。すなわち、作業の機械化、ロボットの採用などの取り組みを推進していかなければならないことを示すものです。

(2)付加価値による生産性
 付加価値とは、生産活動によって、新たに生み出される価値のことで、付加価値額の算出にはいろいろな算出方法があげられています。ここでは、

 付加価値額
 =売上高ー(原材料費+購入部品費+外注加工費+補助材料費)

とします。生産工場では直接消費者に販売することはないので、納品先への納品価格×納品数量を売上高とします。
 なお、付加価値の内容は企業により異なりますから、算出方法は、企業で取り決めておく必要があります。
 付加価値生産性は、労働時間当たりの付加価値を算出します。



 付加価値生産性の評価を行う場合、従業員や作業員一人当たり付加価値生産性を求める場合もあります。この場合の計算式は次のようになります。



 付加価値生産性を高めるためには、計算式で示すように分母の労働時間すなわち、作業工数又は人員を減らすこと、分子の付加価値額を増やすことにあります。付加価値額を増やすには、外部に支払う金額を下げることすなわち材料費や購入部品費を下げるなどがあげられます。
 さらに、付加価値額を増やすには、納品数量(販売数量)をあげることですから、その取り組みも重要なことです。もう一つの課題は、納品価格を上げることです。これは、納品先との交渉になりますから、大変難しい取り組みの一つです。一般に「価格転嫁」と呼ばれている課題で、材料などの購入物価が上がり、賃金も上げなければならない受注企業の大きな問題点といえます。経営者自ら先頭に立って、根拠になるデータを基に交渉に当たることです。なお、新規受注契約時に、使用材料などの価格変動があった場合に自動的にそれを反映する取り決めを行う方法も考えられます。、
 ところで、製品開発を行っている企業では、「製品の付加価値」を高めることが最も重要です。製品の付加価値は、基本的には新製品開発とその設計にあることはいうまでもありません。ここでは、製品設計による付加価値の向上についての詳しい説明は省略してあります。

1.3 設備生産性向上
 設備の生産性は、生産活動に使用する各種の設備の効率的な生産が行われているか活用度合いを測定評価するものです。いろいろな指標がありますが代表的な式を示します。

(1)時間当たりの生産性
 計算式は次のようになっています。



 ここで設備とは、各種の機械類、自動加工機や自動組立設備などをいいます。設備生産性の算出は、使用する機械や自動組立設備など評価したい設備毎に行います。なお、特別な場合には、生産数量の代わりに製品生産に使う設備すべてを合計した付加価値額で生産性を算出することもあります。

(2)設備稼働率
 設備生産性を高めるためには設備が常に稼働することですが、実際には設備故障や材料・部品手待ちなどで停止することが少なくありません。この停止時間を記録し、その原因の分析と改善を行うことが必要になります。
 次の図は、一般的な設備の運転時間のサンプル内容を示します。それぞれの呼称は企業により異なるのでここでの定義を記載してあります。
 
 機械や生産設備の稼働率を上げることがポイント
 
 この設備の稼働率を計算する式は次のように行います。

 
 この設備稼働率を高めることが生産性を高めることになります。なお、通常は停止時間を記録して、その内容や原因について分析します。
 まお、設備が突然停止するとその回復に時間を要しますから、事前の保守点検が重要な取り組みになってきます。最近は、AIを使って、設備の不具合を予知して保全を行う予兆保全が行われるようになってきています。

(3)マシンサイクルの短縮 
 設備の生産性を高めるもう一つの手法に、マシンサイクルの短縮があります。これは、その設備で一個の生産に要する設定時間のことで、1サイクルで1個つくる意味になります。


    
 自動化設備のマシンサイクルが15秒(0.25分)であればその生産能力は、1時間当たり240個となります。このマシンサイクルは、設備仕様(設計)設定段階で生産能力を基本にで決めます。これに稼働率を反映することにより生産実績が算出できます。
 なお、使用する機器(各種のセンサーなど)、治具仕様、搬送装置などの改善を行うことによって、マシンサイクルの短縮を図ることも重要なことです。

1.4 材料生産性
 材料生産性は、製品に使用する材料(直接材料)が効率よく製品になったかどうかを算出することです。



歩留まりは材料を有効に利用することです この式は、材料の「歩留まり」ともよばれており、材料のから製品に使用された残りの材料(残材)との比率を算出して材料の有効利用率を算出するものです。
 右の図では、歩留まりは8割(80%)の計算になります。材料の歩留まりを如何に上げていくかが工夫のしどころになります。
 同様に補助材料でも例えば容器に入っている容量のすべてを使い切りにすることがポイントになります。重箱の隅もムダにしません。
 また、分母分子を金額で計算することもできます。この場合の計算式を示します。



 この計算式は、製品に使われるすべての原材料を金額計算でおきかえて製品の価格と比較することになります。使用する材料費が増えると生産性は低くなります。一般的には、この逆数すなわち、製品価格に占める材料費の割合がいくらかを知ることが重要になります。「製造原価」の項目を参照してください。

1.5 製造資本生産性
 この製造資本生産性とは、製品をつくる資本でいくら生産できるかを評価するものです。この計算式を示します。



 ここでの製造資本とは、製品の製造に必要な資本の有効活用そ示す尺度ですが、生産現場で実際には活用されない計算式です。ここでの製造資本とは、いわゆる固定資産であり土地、建物、機械や設備費用を集計したもです。生産に必要なすべての資金は含まれていません。
 従って、製品の生産に当たって、必要な費用すなわち、材料費、人件費、電力費などを含めると製造のための費用となりますから、次のような式になります。


 
 この計算式は、製品一個当たりいくら費用がかかるかを算出する計算式です。一般に使われている「製造原価」の算出式になります。
 
2.作業の効率を測定する計算式
 今まで述べてきた一般的に使われる生産性を測定する計算式以外にも作業効率を測定する計算式が現場では使われています。なお、この項目は「生産管理」でも述べてあります。

2.1 作業能率の向上
 作業者の作業能率を算出して、作業者の教育や作業の改善に活かすものです。


     (注)
        出来高時間=生産数量×標準時間
        直接時間=実働時間ー間接時間

 ここで示す直接時間とは、実際に作業を行っている時間です。間接時間は非作業時間で、材料手待や機械故障手待ち、清掃時間などをいいます。これらの時間の定義や記録などの取り扱いは、企業で定めておきます。
 なお、作業能率が低い場合、作業者の習熟の遅れや作業未熟などが主たる原因ですから監督者が作業訓練や指導を行う必要があります。

2.2 間接時間の縮小
 間接時間は、工長など監督者の問題と技術者等の問題として、捉えることが出j来ます。職場で使用する材料の手待ち、組立部品の欠品異品による手待ち、設備故障の停止等は、監督者の他に設備保全担当部署、生産管理担当部署などの仕事に起因するといえます。この間接時間の記録は、作業日報などで把握できるようにします。 
 なお、生産職場では直接率を算出して、現場の問題点や課題を明らかにします。直接率は次の式で算出できます。



2.3 工数低減の推進
 生産性が向上すると、製品の一個当たり工数は下がって行くことになります。その工数の算出は次の式で計算できます。



 この結果をグラフで表していくと生産性向上の実績がよく見えます。
工数低減はすべての作業に求められます
 1個当たり工数は図に示すように、累計生産数量が増えていくに従い少しずつ工数が低減していきます。もし、この低減グラフが上がったり、横這いなどになってくると問題点が発生していることになります。


2.4 生産品の不良低減
 材料の加工品や組立完成品の品質検査で、すべて合格することが望まれますが、実際には品質公差から外れて不合格となることが少なくありません。その割合を次の式で算出します。



 この不良率は、その工程,組立ライン、生産工場の品質レベルを表していることになります。
 不良品の発生は、材料や作業工数などのムダを意味しますから、その原因を調査分析して改善を図らなければなりません。次の図は、よく使われる「特性要因図」の例です。この作成は、不具合に影響を与える要因を作業者、機械設備、材料、作業方法のように層別すると共に、関係者でそれぞれの要因を列挙して作成します。
この図は魚の骨に似ています
 これらの要因の中で一番影響の大きい要員を取り上げ、さらに分析を進め、原因を明らかにしていくものです。その他に、パレート図、各種のグラフなどの活用も必要になります。具体的な内容は品質管理の項を参照してください。

2.5 生産リードタイムの短縮
(1)リードタイムを知る 
リードタイムの短縮はすべての仕事に求められています 
 お客さま(納品先、次工程など)に製品を早く届けることは、企業競争を有利にする武器になります。リードタイムは、一般的には「商品の開発から販売」までの期間がよく話題になりますが、自分の仕事でも同じことがいえます。別の表現をすれば、「仕事のスピード」を表わしていることにもなります。   生産リードタイムとは、作業を開始してから完成するまでの時間を示すものです。いろいろな仕事にもリードタイムがありますから如何にしてそれを短縮するかが課題となっています。

(参考) いろいろなリードタイム
   ・A製品の設計開始ー設計完了 ・・A 製品設計リードタイム
   ・B製品組立開始ー組立完了 ・・・・B製品組立リードタイム
   ・C部品加工開始ー加工完了 ・・・・C部品加工リードタイム
   ・D工程作業開始ー作業の完了.・.・D工程作業のリードタイム
   ・E組立品測定開始ー測定完了・・・E部品測定リードタイム  

 このようなリードタイムは、最短のリードタイムを標準として、それぞれの類似の仕事の日程計画などに反映されます。

(2)生産リードタイムを短縮する
 製品をつくるリードタイムはその作業に着手して作業が完了する(あるいは、製品が出来上がる)までに要する時間を示すことですから、この間にかかる時間を把握して、その分析と改善を行っていく必要があります。

①個々の作業のリードタイムの短縮
 一つの作業のリードタイムの短縮を図るには、その作業の手順とそれを測定してその時間を短縮できるように改善していくことになります。作業の時間がかかる最大の要因は間接的な時間です。
 一般にムダな作業と評価される時間を改善することになります。
 <例>1.探す(材料や部品、工具などを探す)
      2.運ぶ(次工程に運ぶ、送る)
     
3.かがむ、背を伸ばすなど無理な身体動作は時間がかかる
     
4.歩く(工程内の移動、部品などを運ぶための歩行)
   
  5.手待ち(材料や部品の欠品など)
 このような動作を低減させることが作業時間を短縮することにつながります。
②工程の流れを一定にして停滞をなくする
 製品をつくる時間を短縮するには、作業工程の流れを「川の流れのように」全体の工程を定められた一定のスピードで流れることです。どこかの工程がストップすると全体の流れも乱れ、その回復に時間がかかります。また、仕掛品などが多くなるとその間の停滞が生じ、リードタイムが長くなります。
 <工程設計の改善によるリードタイムの短縮>
      1.工程数を少なくする
      2.工程間の移動、搬送(時間)を減らす
      3.作業のための移動距離を減らす
      4.工程内の作業バランスや干渉を減らす
      5.工程のトラブル時の対応処理の迅速化など
        (トラブル内容把握、対応処理、作業停止、作業再開等)
    
3.作業効率化の推進

 労働生産性を上げていくためには、作業者の工数をムダにしないことであることは、すでに述べました。ここでは、効率的に作業を行うための手段について述べていきます。

3.1 標準作業の遵守
 生産作業を行うに当たって、作業者が自分勝手な作業を行っては作業の安全や製品の品質も安定しません。一般には、作業ごとに標準作業を定めています。作業の手順や使用する治具や工具、機械を使う場合はその操作手順、製品や加工品の検査や測定方法など作業に関するすべての項目が対象になります。この標準作業の基本は、作業者の安全と製品の品質を確保することにあります。この具体的な内容を書類に記載したものが標準作業書です。企業によっては、この呼び名が変わっていることもありますが基本的な内容は同じです。

3.2 標準作業の改定
 作業を行うに当たって、使用する材料や部品の変更、作業者の技能向上、使用する機械や治具などの変更、設計変更などが発生して、作業の変更や改善が必要になってきます。、

(1)設計変更による改定
 設計変更の場合は、その指示に従って作業手順や部品の変更、採用時期などに注意して取り組まなければなりません。その昔、現場の生産技術者であった現役時代に、設計変更通知とその図面が送られてくると、早速「作業指図書」を改定し、現場の工長に説明していました。当時は品質管理の取り組みが現場で始まったばかりで、まだ工長が標準作業書は作成することは行われていませんでした。標準作業は口頭で工長が指導する方法が行われていた時代でした。

(2)不良の発生防止と作業改善
 製品の不良が発生した場合、その原因を分析し、再発防止を図るため必要に応じて、作業の改善を行わなければなりません。作業方法を変更する場合は標準作業書も改定します。
 不良発生の原因分析には、特性要因図が使われます。この手法を活用することが望まれます。

(3)次工程からの苦情による作業改善
 
次工程から「部品が組付けられない」「欠品になっている」「寸法精度が悪い」など苦情が来ることがあります。このような場合には、不具合状況をよく確認して、その原因が自工程の作業による場合には、工程の変更や作業方法の改善を行います。

(4)お客さまからのクレーム
 
製品を購入されたお客さまからのクレームがあった場合、そのクレーム内容を精査して作業に問題がある場合にはその改善を行います。決して安易には取り扱わず、しっかりした原因分析と対策を行わなければなりません。なお、クレームの処理に関しては、製造部門だけではなく設計部門などを含めた全社的な取り組みを行うようにします。

3.3 作業者の教育訓練
 効率的な作業を行うためには、作業者の技能向上も必要な取り組みになります。作業者の技能を評価し必要な訓練計画を立て、実施します。

(1)作業者の熟練度向上
 つぎの式で作業者の熟練度を図ります。


   (注)標準時間の設定は「生産管理」を参照

 ここで必要な作業の「標準時間」の設定がない場合、工長の設定する時間、職場の実績時間などで決めておきます。作業の熟練度は作業の経験が長くなるに従い習熟していきます。

(2)作業者の技能訓練
 作業は工長が作業標準書に基づき教えることになりますが、定期的に作業者の作業方法をチェックしなければなりません。間違った作業方を行っている場合は指導を行うことはいうまでもありません。
 なお、作業者の技能向上のために、工長は作業者の訓練計画をつくり部下の技能向上を図っていくことが必要です。作業者は、工程のいろいろな作業が行えるように技能の幅も広げていくことが望まれます。

3.4 作業の効率化
  標準時間の設定は、標準作業に基づき決定していきますが、作業内容が変われば標準時間も変わることになります。作業改善はこの標準作業を見直していくことでもあります。

作業内容の分析をします
 
 ある製品の組立作業の内容を具体的な動作で分析すると上図のようになります。この場合、先ず付随作業をなるべく削減することです。次に正味作業の動作の改善を進めることです。これらの作業を改善するためには、経済的な動作分析や工程設計の技術、工場レイアウト技術などの手法を活用していくことになります。その企業の固有の製造技術や管理技術と共に作業の効率化を推進しなければなりません。

4.機械化と自動化の取り組み
 製品は作業者によってつくられる時代から、機械よってつくる時代となりました。人手不足を乗り越えるためにも早急に取り組まなければなりません。

4.1 機械が製品をつくる
 溶接ロボット溶接ロボットです
 出典:株式会社安川電機
 産業用ロボットが製品組立作業工程に登場してからおよそ50年が過ぎました。今やこのロボットの活躍は常識となりました。ロボットはさらに成長して精度もスピードも向上して人間に近づいてきました。最近では、AIの登場によって、ロボットは人間を越える能力を持つものも現れてきています。
 部品加工の自動化や組立ロボットの導入には、設備投資が必要になります。採算性を経営者は重視して、なかなか採用に踏み切れないのが実情です。特に、賃金が安いと採算性は不利になります。したがって、採算が取れないことを理由に日本の経営者から自動化は軽視されてきました。
 しかし、20数年前、中国で自動車組立ラインの技術指導をしていた頃、現地の経営者は当時の作業者の賃金が日本の10分の1程度にもかかわらず、ロボットの採用を急いでいました。曰く、「ロボットは24時間働き、賃金は不要で、文句も言わない」とそのメリットを強調していました。将来を見据えた経営者には驚いたことを覚えています。

4.2 AIロボットの採用
 最近、ChatGPTのような生成AIの活用が広がってきています。事務的な仕事は今後この生成AIが従業員の代わりをしてくれるようになってくると思います。文章の作成やプログラムの作成以外にも画像の生成も容易になってきています。これから、ものづくりの現場でも適用される仕事が増えてくるはずです。省力化が一層進むことが期待されます。

4.3 自動化の技術開発
 ロボットに働いてもらいます
 生産工程を自動化していくためには、生産技術開発も同時に必要になります。従来の作業者の作業方を自動化する手法から、今後は、ロボットが自ら作業する技術の開発を行っていく必要があります。このため、製品の設計段階から自動化を前提とした設計を行うことが求められます。機械が機械をつくり、ロボットが製品をつくることになります。これがこれからの製品をつくる現場の夢です。
 なお、自動化を推進するには大きな設備投資が必要になりますから、経営者が積極的な営計画を展開する必要があります。社長自らリスクを負って推進することが求められています。

5.品質測定の自動化
 製品の品質測定や検査は、本来は不要な工程と考えるのが理想ですがまだまだ品質の不安定な場合には定期的な品質測定、合否の検査は欠かせません。

5.1 完成品の検査工数の低減
 
加工品の寸法検査や製品の品質確認などのための測定工数や検査工数は意外と要していることがあります。特に特急検査や測定機待ちなどムダな工数も起きることが少なくありません。さらに、測定の時間もかかるのでこのような工数の改善も生産工場の生産性を高める必要があります。

5.2 加工品の測定工数
 
加工寸法や組立工程での精度確認の測定作業は、不良品を出さない取り組みでもあるので、必要不可欠な作業といえます。この作業は、品質が常に安定して維持していることが検査や測定工数低減に寄与します。生産工程の安定が先ず重要であることはいうまでもありません。

5.3 自動測定機
 検査も自動化します
 加工品や製品の測定の自動化を推進するため、いろいろな自動測定器が市販されていますから最適な測定器を選択することが出来ます。

(1)中小物品の自動測定
 測定物を検査機器にセットしてボタンを押すだけで自動測定するものです。データの処理も自動化されているので測定工数は大幅に削減できます。

(2)大物品の自動測定
 検査機器の置かれている検査室で測定物を搬入して測定する方法が従来の三次元測定器ですが、今は現場に測定器を持ち込み測定することができます。測定室に入りきらない大物も測定が可能なものもあります。

3次元測定器の例です
 写真は三次元測定器の例ですが、測定には、プローブと呼ばれる測定工具で測定箇所に当てると自動的にデータが表示されるものです。プローブの自由度が取れるので、複雑な測定ポイントも測定可能という特徴を持っています。





(3)門型三次元測定機
 大物製品検査の代表的な自動測定器です
 大物品の測定機のできる代表的な門型三次元測定機です。測定室に測定器一式を設置して測定するものです。測定室は、空調が出来るので温度管理も出来るようになっています。この測定機による測定は、自動又は半自動で測定でき、そのデータは自動的に取得記録されます。






6.事務部門の生産性向上
 日本の生産性が上がらない原因としてデジタル化の遅れが指摘されています。最近のスマホの普及に従い日本国のデジタル化の関心も高くなってきました。これからは、自分の仕事をデジタル化することに取り組んで欲しいものです。

6.1 業務の標準化
 事務作業の自動化は、自分の仕事を標準化することから取り組む必要があります。同じ仕事を社員がまちまちに行っていては混乱が生じてきます。仕事のやり方が異なる場合は、皆で検討してよりよい効率的な仕事の手順を決めることが必須になります。この場合、仕事の手順をフローチャート(仕事の流れ図や手順)を紙に書いてみるのも一つの方法です。そして、手順やムダな作業などを改善していきます。

6.2 RPA(業務の自動化)
 総務省の資料に、働き方改革として下記の記載があります。参考に転記しました。
 「日本の生産労働人口が減少局面にあるなか、労働力を維持しつつ国際競争力を強化するためには労働力の有効活用や生産性を向上させるための方策が必要です。近年の働き方改革の動きの中でも、人手不足を補いながら生産効率を上げるためのさまざまな施策が講じられてきています。たとえばテレワークの推進をはじめとするワークスタイルの柔軟化による人材の確保や、ICTの高度活用による業務効率改善といったものがあげられます。
 このような背景の下、従来よりも少ない人数で生産力を高めるための手段として、現在、RPA(ロボットによる業務自動化:Robotics Process Automation)が注目を集めています。2017年の調査によると、国内では14.1%の企業が導入済み、6.3%が導入中、19.1%が導入を検討中でした。市場規模は2017年度が31億円、2021年度には100億円規模になると予測されています。
 RPAはこれまで人間が行ってきた定型的なパソコン操作をソフトウエアのロボットにより自動化するものです。具体的には、ユーザー・インターフェース上の操作を認識する技術とワークフロー実行を組み合わせ、表計算ソフトやメールソフト、ERP(基幹業務システム)など複数のアプリケーションを使用する業務プロセスをオートメーション化します。」
 このように多くの企業がRPAの導入を加速しています。遅れを取らないように進めたいものです。

6.3 RPAに適合しやすい業務の事例
 RPAは、企業のいろいろな部門や作業データの取り扱いなど幅広く適用できます。なお、RPAは、ソフトのプログラムを作成する必要がなく、ソフトメーカーの作成したソフトに業務の手順等をインプットする形で自動化が可能になります。市販されているいりろなRPA業務ソフトから自社に最適なソフトを選択して自動化を推進できます。また、ソフト会社と具体的な打ち合わせを行って業務の自動化を推進することもできます。

(1)事務作業事例
   1.従業員の勤怠に関する処理業務
   2.請求書、発注書、納品書等の処理業務
   3.商品の出庫、入庫及び在庫管理業務
   4.問い合わせ等のメール発送等の処理業務
   5.お客さまへの発送資料の送付業務
   6.その他従業員の交通費、経費等の精算業務

(2)ものづくり製造現場関係事例
   1.生産計画や実績管理
   2.人員計画、配置計画の作成、実績工数管理など
   3.在庫部品管理データ処理
   4.品質「測定データ分析、不具合報告
   5.作業日報報告管理
   6.その他不良品対策処理など

 なお、営業部門、設計部門、購買部門、品質管理部門などにもRPAが適用できるいろいろな業務があります。

6.4 VBA(パソコン業務の自動化)
 RPAは、プログラムを組む必要がなく業務の手順をインプットすることで自動化処理を行うのに対し、VBA(Visual Basic for Applications)は自分でプログラムを組んで行うことになります。
 VBAはExcelやWordの「開発」タブにそのプログラムを組むソフトが搭載されています。また、VBAのプログラムの組み方等は、マニュアル本が出版されていますから自分で勉強出ℓ来ます。
 
     <注>   「開発」タブの表示
  ファイルオプションーリボンのユーザー設定ーメインタブに「開発」タブが表示されるので チェックマークを入れるとリボンに「開発」が表示されます。

 リボンにある「マクロの記録」をクリックして、作業を行うとそのプログラムが表示されます。このプログラムから業務処理の変更や改善を行うこともできますから、プログラムを組む参考になるかと思います。先ずは、自分の仕事からVBAのプログラムを使って業務の自動化を図ってみてはどうでしょうか。

7.KPIの取り組み
 従業員の一人一人が自分の仕事の生産性を高めていく取り組みの一つにKPIがあります。今まで述べてきたいろいろな生産性の尺度を自分の仕事に取り入れることで、自分の生産性を自分で把握して仕事の課題を知り、改善を図っていく取り組みです。
 この場合、KPI数値をいつ達成するかも明確にする必要があります。さらに、未達となった場合、その原因などを分析して次の目標達成に取り組みます。
  <注> KPIの内容については「生産管理」に述べてあります。
  
7.1 KPIの設定事例  
(1)A作業者のKPI
 A作業者のKPIの設定例を示します。熟練率(又は熟練度)がどれだけ高まっていくかが目標となります。



(2)B作業者のKPI
 B作業者は、1日(8時間)の生産出来高を取り上げた例です。この実績をグラフで表示して達成度を確認していきます。



(3)C工長のKPI
 C工長は、職場の不良品の低減を目標にした例です。○○年〇月の不良率を0..5%するといった目標を定めて推進します。



(4)D課長のkPI
 D課長は担当する組立ラインの不良率の低減目標を定めてその達成を図っていきます。この目標達成のため、X班長は〇%、Y班長は〇%、Z班長は〇%といった職場を持つ部下と分担して行うこともできます。



(5)E保全課長のKPI
 設備や機械の保全を担当する保全課長は、個々の機械や工場全体の稼働率の目標を上げてそ達成に取り組む例です。



(6)F技術課長のKPI
 生産技術を担当する技術課長は。加工ラインや組立ラインの自動化を推進するためその目標を設定して自動化を計画して実施します。





(7)K工場長のKPI  
 K工場長は、生産計画とその実績を取り上げてその達成率の向上を推進します。この場合、工場全体の達成率や製品別の達成率なども行うこともできます。



 ここに記載した例はKPIの計算式ですが、自分の仕事の目標(KPI)を設定して、PDCAで推進していくことが期待されます。


8.企業の生産性向上の取り組み
 企業が生産性を上げ賃金を継続的に上げていくには、今まで述べてきたように、すべての従業員が自分の「仕事の改革」を推進することです。商品開発部門や設計部門は、商品(製品)の付加価値を高める製品開発であり、技術部門は、製品組立の自動化を推進することであり、さらに製造部門は製造工程の改革にあるといっても過言ではありません。

8.1 仕事の改革
  今までの仕事のやり方を変え、新たな仕事に挑戦しなければ生産性は高まってきません。幸いなことに、これを手助けしてくれるAI(生成AI)が急速に身近になりました。これを自分の頭脳の友として活用していくことです。これから、生成AIがパソコンやスマホに標準装備されてきますから、誰でも活用する時代になりました。今まで自分で作っていたプログラムは、AIが指示した通りのプログラムを自動で作成してくれます。

8.2 ロボットが製品を作る
 今の製品設計は、作業者が両手を使って組み立てる方式ですが、今後は、ロボットが自ら組立できる製品設計にしなければ自動化は進みません。これからのものづくりは、「ロボットが製品を作る」ことになります。今までの片手で目の見えないロボットが、人間と同じように、AIの頭脳を持ち、両手、目、耳、鼻も持つロボットが使われるようになってきます。

8.3 革新的な設備投資
 製品組立を自動化するには、大きな設備投資が必要になります。すでに述べたように経営者は採算性を重視し、さらに、責任を分担(稟議制)する手法が一般的です。賃金が低いと採算は悪くなりますから、皆んな反対して自動化計画はボツになってしまいます。すなわち、「赤信号皆で渡れば怖くない」システムですから、大胆な自動化には手を付けることができない一因でした。このようなリスクを避けた経営は、世界のものづくりのスピード(革新)に日本は大きく遅れを取ってしまったと思っています。

8.4 付加価値のある新商品開発
 値上げのラッシュが続いていますが、中身は変わらず表紙を変えた値上げ、表紙を変えずに中身を減らした値上げが如何に多いことかと思います。お客さまに受け入れられる「付加価値を如何にしてつけていくか」の大切さを実感しています。商品(製品)に付加価値をつける基本は、お客様の声をよく聞くことが第一歩ではないかと思います。
 
9.省力化投資の補助金の活用
 中小企業庁では、中小企業の省力化のために補助金を準備しています。例えば、自動倉庫、、無人搬送車、 測量機などが補助金対象になっています。これからも対象製品は拡大されてくると思われますが、先ず検討してみてはいかがでしょうか。なお補助率は50%で21名以上の企業では1000万円までとなっています。いずれにしても、生産性を向上を目指す事業計画を作ることから始めたいものです。
 なお、中小企業庁の補助金にはいろいろな手続きや条件がありますから、事前に確認をしておいてください。






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