ものづくりの基本となるのは、品質、コスト、納期です。これを効率的に達成する技法が生産管理です。
この生産管理は、ものづくりの中心となる管理技法ですが、その具体的な手法は、企業数だけあるといっても過言ではありません。各企業はその企業独自の生産管理システムを構築して製品を作っているからです。
生産管理には、工程管理、作業管理、日程管理などのほか、品質管理、在庫管理、原価管理などいろいろな管理の手法があます。これを「管理技術」と呼んでいます。
さらに、すでに述べたように企業には製品つくるために必要な独自の技術(機械加工、鋳造、熱処理などをいう。これらを「固有技術」と呼びます)を持っています。企業はこの固有技術と管理技術を車の両輪のように活かしていくことが必要になります。そしてこの両輪によって、ものづくりの基本である「より良いもの(Q)を、より安く(C)、より早く(D)」を達成していくことになります。
1.生産管理
1.1 生産管理のポイント
1.2 生産管理の活動
1.3 生産管理の内容
1.4 品質(Q)
1.5 製造コスト(C)
1.6 納期(D)
2.工程計画(工程設計)
2.1 工程計画はQCDを達成させることが狙い
2.2 工程レイアウト(工場レイアウト)
2.3 工程設計のポイント
3.生産管理の基本となる仕事
3.1 生産統制(工程の監視)
3.2 工程管理は「工程の変化管理」する
4.生産効率の向上
4.1 労働生産性
4.2 一個当たり工数
4.3 能率
4.4 設備生産性
4.5 職場のKPI
5.生産管理のもう一つの目的
5.1 生産工程の問題解決
5.2 作業の習熟
5.3 習熟曲線
5.4 改善によるコストダウン
6. KPIの活用
6.1 バランススコアカード
6.2 KPIは仕事の見える化
6.3 KPIはPDCAで達成
6.4 KGI
6.5 KPI取り組み事例
7. ロボットが製品をつくる自動化
8.標準時間の設定と活用
8.1 標準時間とは
8.2 余裕時間
8.3 標準時間の設定方法の概要
8.4 標準時間の活用
1.生産管理
1.1 生産管理のポイント
(1)生産管理とは
生産管理とは、効率的な生産を行っていく手法のことです。効率的とは、ムダのない生産を行うことで、使用する材料、作業者の工数、設備の停止、材料や部品の供給などのムダを無くしていくことでもあります。さらに、生産計画にしたがって、製品をつくっていくシステムを指すこともあります。
、
(2)生産計画の変更への対応
生産管理の狙いは、先ず「生産計画通りに製品をつくる」ことです。作り過ぎても、不足してもいけないことであるといえます。「生産計画」は、ものづくり経営の根幹となっているもので、「どの製品をいつ、いくら作るか」を立案したものです。したがって、生産工場では、しっかりした生産品種(機種や製品など)や生産日程を立案すると共に、その実績を正確に把握することが大切になります。実際には、度々生産品種や数量、生産日程の変更が行われ、時には特急生産品の割り込みなど生産計画の変更は生産管理の混乱の要因になっています。
(3)生産管理のポイント
生産管理の重要なポイントとして、次のような項目があげられます。
@長期や短期の生産計画の信頼性(確度)を高めること
A生産実績の正確な把握(合格品、不良品、手直し品など)
B計画と実績の差異分析とその問題点の改善
C生産リードタイムの実績把握と短縮化
Dいうまでもないことですが、ものづくりは「安全第一」であり「環境」への配慮は優先すべきことです。
1.2 生産管理の活動
(1)ものづくりの目標
ものづくりではすでに述べたように、Q(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)が基本となる目標です。このQCD目標を達成する活動が広い意味での生産管理ですが、Q(品質)を「品質管理」、C(コスト)を「原価管理」、D(納期)を生産管理と区分して取り上げて活動する場合もあります。なお、原価管理の代りにここでは「製造原価の低減」として取り上げています。また、D(納期)の意味では、製品をお客さま(受注品は納品先)に届ける期日とその数量も含まれています。
ものづくりを行うどんな企業でも製品毎にこのQCDの目標を立て活動しています。この目標を達成するために必要な生産の4要素が、「人」「材料(物)」「設備」「技術(技能)」であることはご存じの通りです。
(2)生産管理は全社的な活動
生産管理は生産現場の活動のように思われがちですが、企業で働く全社の「人」たちが関わってきます。「企業は人なり」といわれるように、「人」は企業の根幹です。企業の技術、技能を支えているのは従業員です。「物」では、生産に必要な直接的な物だけではなく間接的な物(間接材料や副資材、保護具など)も含まれます。「設備」はロボットや生産に使う設備機械のほか金型、治具などがあります。全社的な取り組みとしては、設備更新や設備投資計画なども関わりがあります。「技術」は、その企業の持つノウハウであり、いろいろな技術基準書、品質規格書、各種のマニュルなどが最新の状態に管理され活用されていることです。このように生産の4要素を円滑に推進することによって、よいものづくりができるといえます。
1.3 生産管理の内容
生産管理の主たる範囲と内容を右図の赤色円内に示します。外側の業務も生産管理とチェインのように密接な関係があることを示しています。生産管理の中心にあるのは、工程管理になります。
生産管理には、図に示す以外に、既に述べたように品質管理や原価管理の他に在庫管理などがあります。このような呼称や内容は、企業により異なることは言うまでもありません。
納期と在庫:
お客様から指定された納期に届けるためには、生産から納入までの期間によってはいろいろな時間的、量的なリスクが生じますから、在庫(製品在庫や仕掛在庫)でそれを補うことになります。さらに、お客様の納入日指示の振れがあるとこれまた在庫でカバーせざるをえなくなります。在庫が全くないと特急生産や割り込み生産など生産工程の混乱が生じます。しかし、在庫はコストもふくらみ、いろいろな問題点につながるので「在庫の問題解決」が生産管理の重要な課題の一つです。 |
1.4 品質(Q)
(1)品質第一
「品質第一」を経営の目標に掲げている企業は少なくないと思います。企業にとって製品の品質問題は最も重要な取り組む課題といえます。不良ばかりできる機械、品質のばらつきが大きい作業方法、全数検査しなければ合格品ができないなどという職場ではその企業は危ないといわざるをえません。どんな企業でも全社的なQMS(Quality
Management System)を構築していくことが必要です。品質は現場の問題として捉えるのではなく全社的な取り組みが大切です。
ここで注目したいと思うのは、新製品の品質です。重大な品質問題が発生して、新製品が失敗する企業も少なくないようです。特に、直接的間接的問わず使用するお客さまの人身に影響を及ぼす品質は、あらゆるテスト、品質確認が必要です。さらに、留意しておきたいのはお客さまの使い方で思わぬ問題が生じることがありますから、念の上に念を入れておくべきです。
全数検査で不良品は流れない?:
ある企業の工場長の説明「私どもの製品は、すべて全数検査を実施しておりますので、不良品は1個も納品しません。」
でも、これは本当に信頼してよいでしょうか?何故検査をしなければならないかを考えてみることです。さらに人手に頼る検査は、「人間的なエラーは避けられない」ということを知っておく必要があります。 |
(2)製造品質
もう一つの品質問題は、生産工程で発生する品質不良です。生産ラインでは品質特性に影響する4M(Man,Machine,Material,Method)は、常に変化しています。変化の度合いにより、公差から外れ、品質が規格外となり不合格品が出来てしまいます。したがって、常に工程を監視することが必要です。作業者による工程での検査はその手段の一つです。工程管理は、この品質を監視しているといえます。
工程管理の基準となるのは、QC工程表や作業標準(書)です。中小企業でよくある問題点は、「改定」がなされていないことが見受けられます。不良品の対策や作業改善の結果をこれらの基準書類に織り込まなくてはなりません。
変化点:
工程における変化の代表的なものは、よくある設計変更です。材料や部品の変更は、事前に検討して問題点がないか確認する必要があります。変更を行う場合、関係部署に通知して、作業変更や必要な機械設備などの変更、調整を行います。次に、作業方法や手順を変えたり、設備機械の調整変更を行ったなどのよう工程変更が生じた場合は、関係する次工程に通知するといった変化点管理が非常に大切です。 |
1.5 製造コスト(C)
(1)コスト低減
企業が利益を確保するには、より安い(低い)原価で製品をつくらなければならないことは当然のことです。原価を下げるには、製品の原価の内容を知ること、VA(Value Analysis)の展開、購買手法の改善などを先ず進めなければなりません。特に設計段階でのVE(Value Engineering)は、最も原価に影響を与えます。かって、「軽薄短小」の言葉が流行しましたが、この考え方は今でもコスト低減思想に十分に生きています。
(2)製品ごとの原価の把握
また、中小企業においては、製品ごとの正しい原価を把握することが原価低減のスタートといえます。より企業の利益を確保していくには、儲かる製品、儲からない製品を選別しながら、中長期の生産販売計画に反映していくことになります。製造コストの削減の狙いは、儲かる製品はより多く儲けて、儲からない製品は儲かるようにすることだといえるでしょう。これはすべての企業が永遠に取り組む課題です。そしてこの成果は最終的には、お客さまに還元されることが期待されています。
1.6 納期(D)
(1)リードタイムの短縮
納期は、「早くつくる」ことにほかなりません。材料から製品になるまでの時間(リードタイム:Lead Time)をできるだけ短縮することです。特に新製品の製品開発から販売までの期間を短くすることも大切なことです。受注品であれば、受注から納品までの期間を可能な限り短縮することです。新製品の開発期間短縮手法として設計時にCE(Concurrent
Engineering、SE:Simultaneous Engineering)に取り組むことが望まれます。CEもSEも内容は同じといえますが、SEについては別項(自動車組立技術)で述べてあります。
(2)生産数量の達成
納期には、時間的な納期と量的な納期があります。納期が遅れる原因の一つに、品質不良があります。注文通りの品質、合格する製品が出来ないため納品が出来ないことにあります。品質不良の原因や対策は上記の品質項で述べた通りです。
もう一つの納期までに生産量が達成出来ない大きな原因は、機械故障やいろいろな手待ちによるラインストップがあります。現場の作業管理や日程管理の不備などがその問題発生の要因となりますが、本当の原因を掴むようにしないと再発防止には結び付きません。
機械故障では、機械のメンテナンスの問題や予備部品不足などいろいろな要因の真因を掴み改善する必要があります。ラインストップの原因には、不良の発生、材料手待ち、前工程の加工遅れなど数多くあります。
納期遅れは、企業の信用・信頼をあっという間に失いますから厳守しなければなりません。
2.工程計画(工程設計)
2.1 工程設計はQCDを達成させることが狙い
ものづくりのスタートは、製品設計ですが、それを具体的に実現していく手段が「工程設計」です。すなわち、工程設計は、製品の作り方を決めることです。製品設計段階でも、その製品の作り方を想定しています。例えば、組立順序や部品の設定です。さらに、QCDについてもその目標値が決められています。
Q:性能、機能、寸法、公差など
C:目標とする製造原価
D:開発、実験、試作、生産、販売といった大日程取り決める
工程設計で重要な情報は「生産計画」です。基本的な内容は、「どんな製品を、いつまでに、どこで、どれくらい作る」かです。特に生産品種と生産量は工程設計に大きな影響を与えます。工程設計は、最終的には「QC工程表」として目に見えるようにします。
2.2 工程レイアウト(工場レイアウト)
レイアウトの基本は「物の流れ」ですが、作業者の動き、加工品(半加工品、半製品も同様)の動き、運搬車類の動き、供給する材料や部品の動き、生産指示などの情報の動きなどを具体的に表示したものです。具体的には、作業者の配置、設備の配置、通路、使用材料、組付部品の置き場配置などを図面にしていきます。
なお、生産する製品の変化や生産数量は一定ではなく、企業の販売状況から変動していきます。したがって、レイアウトもそれに対応できるように柔軟性をもつことが必要です。しかし、レイアウトの変更は、大きな費用もかかるので、中長期の生産販売計画が大変重要になってきます。
2.3 工程設計のポイント
(1) 製造技術
工程設計で重要なのは、加工技術や組立技術です。これらは、企業の保有する固有技術であり、ものづくりの重要なノウハウということになります。一つの図面に書かれた設計図から作られる製品は、いろいろな作り方が考えられます。したがって、優れた技術を持つそれぞれの企業に提案してもらうこともあります。部品でも製品でも、いろいろな作り方があることを知っておくことです。さらに、工程設計は、企業の持つ技術を用いて、製造品質を確保することが工程設計の重要なポイントであるといえます。
(2)工程とは
材料を加工する順序(加工工程ともいう)や製品の組立手順(組立工程ともいう)の一つ一つを工程といいます。部品の形状が複雑になるほど加工する工程数は多くなります。また、多数の部品を組立てる製品の場合も組立工程数が多くなるのは当然です。この工程を目に見えるようにしたものを「工程表」と呼んでいます。工程表には材料などの加工する工程を示す「部品工程表」や「部品加工表」などと呼ばれており、名称は企業によりさまざまです。同様に製品組立の場合も「組立工程表」「組立手順表」などがありますが、一般的に「QC工程表」を作成して、工程設計に使われています。
(3)工程の構成要素
工程に必要とする要素は、作業に必要な面積、使用する機械、治具、工具、作業人員、必要とする動力、使用する補助材料、材料や部品の運搬機器などが必要となります。これらの構成要素は、必要に応じて工程表に書き込まれるのが一般的です。
(4)工程レイアウトの設計
工程表が作成されるとレイアウトの設計を行います。工場内のどこで生産を行うかを想定して、工程の流れにしたがって作業位置や機械類の配置、材料や部品の配置などを計画していきます。これらを図面にしたものが工程レイアウト図となります。一般的には直線状に配置しますが、工場面積の制約がある場合は、レイアウトを工夫する必要があります。例えば、U字型、L字型配置などもよく行われています。
(5)作業者の配置
工程内で作業者が作業を行う場合は、特に作業者の安全には配慮しなければなりません。工程内で作業者の移動する範囲を定め、作業環境が作業者の身体に悪影響を及ぼすことがないようにしなければなりません。例えば、熱風や冷気などの吹き付け、作業服などの巻き込み、天井設備の落下、作業時の頻繁な歩行、重量物の移動作業などがあげられます。
(6)工程作業時間の設定
工程設計において重要なことは、生産計画から算出されるタクトタイム内でそれぞれの工程の作業時間が終えるようにしなければなりません。例えば、工程のタクトタイムが2分であればとすれば、各工程は2分以内で作業を終えるように工程設計を行わなくてはなりません。したがって、各工程の標準作業時間を設定してタクトタイム内で作業が可能なように設計していきます。もし、やむを得ずタクトタイムを越える場合には工程の分割(工程を増やす)や作業内容を組み替えるなど検討しなければなりません。流れ作業では、最も作業時間の長い工程がそのラインの生産量を決定することになります。この工程を「ネック工程」とも呼びます。ネック工程の時間を短縮することも重要な改善項目といえます。
3.生産管理の基本となる仕事
3.1 生産統制(工程の監視)
生産管理で先ず行なう基本的な仕事の一つは、生産工程の監視です。工場全体にわたる生産活動が停滞なく行えるように監視と不具合時には迅速な処置をとることです。工場における生産工程はすべての工程が「よどみなく流れる川の如く」一定のスピードで流れなくてはなりません。
上にも述べたように、例えば、作業不良によるラインの停止、設備や機械の故障による生産ストップ、部品や材料の欠品や手待ち、技術的なトラブルによる作業停止などさまざまな要因で生産活動の停滞が発生します。現場からの情報を迅速に収集すると共に具体的な指示を行なわなくてはなりません。これが生産統制ですが、このためには、生産活動が目に見えるように体制(設備面とソフト面)を構築することが必要です。
3.2 工程管理は「工程の変化を管理」する
生産管理の中で最も基本となる管理は工程管理です。日常の生産工程は「まるで生き物のように変化」しています。出来上がった製品を測定してみると、すべての製品寸法は同じではなく少しずつばらついています。これは生産工程のいろいろな条件が変化することによるものです。この変化は、「目に見えるもの」と「目に見えない(気がつかない)もの」があります。見える変化は対応できますが、しかし見えない変化は見逃してしまい、不良品の発生や作業停止、設備故障、事故などの原因になって、問題が発生してしまいます。
例えば設計変更や作業者の変更は目に見えるものですが、自然条件(温湿度)、材料、部品などの変更は単に見ても通知がない限り何が変わったのか気がつかないものです。このような工程の変化から生ずる問題を未然に防ぎ、定められたばらつきの範囲内におさまるようにすることが工程管理の目的です。作業標準化や設計段階での事前検討(デザインレビュー:DR) もそのための手法の一つです。不良品が発生したり、異常が起きたりしたときは、生産工程に戻ることからはじめることです。
4.生産効率の向上
生産管理は生産効率を高めるため、いろいろな数値を用いて取り組みます。その代表的な数値が生産性向上です。生産性を測る尺度にはいろいろな算出式がありますが、基本的な計算方法を記載します。
4.1 労働生産性
労働生産性は、一般には作業員(直接作業者)の生産性をいいますが、全社員の労働生産性も経営的には考えてみる必要があります。よく用いられるのは、下記に示す作業者の生産性ですが、この作業者の代わりにその企業の従業員数で考えるとその企業の生産性を評価することができます。
職場の生産性の尺度の例をあげますと
労働生産性は、時間当たりの出来高(生産数量)を示すことになります。作業者が一時間当たりいくら生産したかを直接的に測定するものです。生産数量が上がってくると生産性が高くなったことを示すことになります。生産性は、個人単位、職場単位、工場単位など区分して測定するようにします。
4.2 一個当たり工数
職場で把握するデータの中でよく使われるのは、一個当たりの工数です。これは、一個生産するためにいくら工数がかかったかを表しています。一個の部品や製品単位で算出していくと、工数のばらつきすなわち、低減したり、増加したり変動していることがわかります。この一個当たり工数が低減していくと生産性向上を示すことになります。
この「直接時間」は就業規則で定められた勤務時間(実働時間)から規則で定める休憩時間や各種の手待時間(設備故障や部品待ちなど)の「間接時間」を差し引いた時間です。すなわち、直接時間=実働時間ー間接時間ということになります。
なお、生産品の呼び方で、一個、一台、一基、一本などさまざまですが、ここでは代表して一個又は一台と呼ぶことにします。
4.3 能率
職場では、能率が上がった、下がったということがよく聞かれます。その計算式は、次のようになります。
この尺度もよく使われています。なお、出来高時間=生産数量×標準時間で算出します。
この能率の尺度は個人や他部署との比較が容易にできるのでよく利用されているものです。ただ、標準時間の設定が公平でかつ精度が高いことが重要になります。
なお、ここで、課題は直接時間です。次の指標も同時に算出します。
この直接時間は、実際の作業時間のことです。いろいろな手待ち時間(非作業時間)などが増えると作業時間が減りますから直接率は低くなります。直接時間を増やすことが生産性向上の第一ステップになります。
4.4 設備生産性
設備生産性は、設備や機械の生産効率を測定する尺度の一つです。時間当たり生産数量や出来高などがあります。その一例を示します。
設備生産性を他の設備や機械との比較を容易にするために、生産数量の代わりに生産金額(生産数量×生産品の評価額)で算出する場合もあります。なお、設備生産性において、注意すべきは設備稼働率があります。これは、1日、1月、1年という単位として、どれだけ有効に稼働しているかが問題になります。
設備の稼働率の計算式を示します。
設備稼働率(%)=(設備稼働時間÷総運転時間)×100 |
(注):設備稼動時間=総運転時間−設備停止時間
設備稼働率は設備の運転時間に対する実際の稼働時間の割合です。設備故障停止時間、金型や治具の破損補修時間、材料や部品待ち時間などがあると設備の稼働時間は減りますから、稼働率は低くなります。なお、チョコ停(ごく短時間の停止)をどの程度含めるかは企業で決めておく必要があります。
4.5 職場のKPI
職場の生産効率を数値化したり、作業者の生産性を表す尺度は他にもいろいろ工夫された計算式があります。詳細はKPIの項目を参照してください。
生産管理は、工場全体や職場単位の生産性を高めていく取り組みですから、作業効率や設備稼働率などはその代表的なデータです。生産性の尺度には、そのほか「付加価値」や「加工高」を金額で算出した生産性の算出式も使われています。また、その企業独自の生産性尺度を設定することも考えていくべきです
5.生産管理のもう一つの目的
5.1 生産工程の問題解決
ものづくり工場ではいろいろな問題が発生します。先ず求められるのは、この現場のトラブルの解決です。目に見える問題や目に見えない問題を一歩一歩改善していくことです。その代表的なものが「在庫」です。在庫そのものは目に見えていますが、問題として映らない限り問題ではありません。この在庫について問題として取り上げたのは、大野耐一先生です。工程間の部品在庫をムダな生産と見てその改善に取り組み、「ジャストインタイム」に結びついたといえます。このような在庫を在庫管理の問題としてではなく「生産工程管理」の問題として捉えたところに感銘を受けます。
ものづくり工場には、生産能力向上を目指したネック工程の改善、品質を高める工程能力向上、設備機械の安全対策、作業員の安全問題点の改善などいろいろな取り組みが必要です。現場にはこのような改善すべきことが数多く潜在していると考えています。現場で発生する問題を総合的、体系的に解決を図っていくものが生産管理です。
5.2 作業の習熟
新製品の組立や作業改善後の作業に当たって、考えておく必要があるのは作業習熟に関する技術的な知識です。どんな作業(仕事)でもその作業を繰り返し行うことにより習熟が進んでいきます。最初はなかなかうまくできなくても、少しずつ出来高が増えたり、作業が上手になり作業時間が短くなってきます。これを習熟と呼んでいます。
5.3 習熟曲線
生産数量と一台当たりの工数低減の関係をグラフに示したものが工数低減曲線又は習熟曲線と呼んでいます。これは作業の習熟がどのようになっていくかをグラフ化したもので、一般的なグラフで表わすと放物線の曲線ですが、両対数目盛りで表わすと直線状になってきます。次の図の参考図は両対数目盛りで表わしたものです。
最初の1台目は非常に時間がかかりますから工数は高く、生産量が増えるに従い工数は低減していきます。グラフに示すと図のようになります。製品の台当たり(又は1個当たりでもよい)工数は累計生産台数と共に低減していきます。最終的には標準時間に近づくことになります。この作業時間が如何に早く標準時間に到達するかが課題になります。図に示すY累計生産台数が管理ポイントになります。この工数低減を両対数グラフで表示すると直線状になります。
作業者の作業習熟は、図に示すように低減は緩やかです。この低減率(習熟率ともいう)がどれくらいになるかは、その企業の作業環境や条件などにより、また作業の内容により異なります。新製品の生産時にデータを取って自社の作業別習熟率を算出して、工数低減を早める努力が求められます。ある企業では、実際工数と標準時間との比較を数値で示して管理しています。
実際工数÷標準時間=N値
で計算します。
自動化設備などのいろいろな設備や機械の習熟も同様です。一般に、設備は初期に故障が起こりやすく、機械操作などの習熟は早いので習熟曲線は急な右下がりとなってきます。
新しい機械や自動化設備を導入した場合、稼働初期の習熟率のN値が高いので十分考慮しておかなくてはなりません。
作業の変更や新しい設備を入れる場合、生産立ち上げ初期に計画通りの生産数量が上がらなくて問題になる場合があります。このような時には、作業の習熟が必要なことを知って、それに合った生産計画、人員計画を立案しなければなりません。
習熟:
前にも述べたように繰り返して作業を行なうと、だんだん慣れてきて、早く、楽に、正確に作業ができるようになります。これは、誰でも経験して知っていることです。作業だけではなく、繰り返して行なう仕事は、習熟によって生産性が上がります。コストも生産台数が増えると低下します。したがって、最初は、時間がかかりうまくいかなくとも、習熟によって可能になることを知っておく必要があります。新品種の生産立ち上げで生産を開始してもなかなか生産数量が上がらず、「現場は何をやっているんだ」と怒鳴り散らす課長や工場長が見られますが習熟を理解させてください。 |
5.4 改善によるコストダウン
生産管理は、生産工程の問題に取り組むことですが、同時に生産コストをさげるという狙いもあるのです。別の表現では「改善する」ことであるといえます。目に見えない問題、気づかない問題、ムダをなくすることなどに取り組むことです。
改善に取り組む切り口は、「不良の発生」「作業の遅れ」「作業の手待ち」「作業の安全」などがあげられます。改善は、その企業や職場の優先する問題から取り組むことが重要です。さらに、改善は従業員や作業員一人ひとりの問題意識が推進力になりますから、管理者、監督者の指導が不可欠といえます。
習熟と改善:
作業の改善や工程変更などで今までと違った方法で作業を実施する場合、最初はうまく行かず、改善に反対することがよくあります。何事も当初はうまく行かないことが多いことを知っておくことです。 新しい作業方法も習熟が進んでくると予定通りの作業ができるようになってきます。改善案などを実行する時は、いろいろ問題が生じても習熟という視点にも取り組んでいくことです。 |
6.KPIの活用
このところ、企業ではKPI(Key Performance Indicator :主要業績評価指標)が活用されています。生産工場でのKPIの重要な指標は上記に述べてありますが、もう少し詳しく説明します。
6.1 バランススコアカード
バランススコアカード(Balanced Score Card)は、米国のロバートS.キャプラン氏とデビットP.ノートン氏が1996年の「バランススコアカード」を出版して広まったと聞いています。
(出典:バランススコアカード 訳吉川武男 生産性出版 2011年)
次に、バランススコアカードの一例を下記に示します。
出典:「バランススコアカード」 吉川武男著 生産性出版2013年 P32
バランススコアカードでは、上記の「財務の視点」「顧客の視点」「財務プロセスの視点」「人材と変革の視点」がポイントで、これがバランススコアカードの基本となっていると述べられています。上記は航空会社の例ですが、すべての企業に適用できる手法です。ここで注目したいのは、業績評価指標とそのターゲット(数値目標)です。これはどんな企業でも日常的に実行している手法ですが、従業員一人一人にとっても自分の仕事の目標をを達成するために重要な取り組みではないでしょうか。
このバランススコアカードで使われる「業績評価指標」が注目され、KPIという呼び名で活用が広まってきています。
6.2 KPIは仕事の見える化
私達が自動車を運転するとき、ハンドル前にある計器盤には走行速度を示すスピードメーターのほか、燃料計、水温計など、さらにブレーキ、ドアー開閉、シートベルト着用などの警告灯、警告音や音声が流れます。正常な状態で運転しているかどうかが目に見えるようになっています。航空機の操縦では、さらに高度計や気圧計など数多くの計器、表示灯などが操縦席いっぱいに広がっています。地上を走行する自動車と違って,大勢の乗客を乗せ高速で空を飛ぶ航空機はそれだけリスクがあるということですから、操縦に欠かせないいろいろなデータによって飛行状態が目に見えるように表示することが求められます。すなわち、操縦という仕事を見える化するということになります。
ものづくり工場で品質、コスト、生産を見える化する指標として最近活用されている用語が「KPI」です。長年ものづくりに携わる技術者としては、当たり前に使ってきた指標ですが、KPIとしてその一例を示します。

ここで大切なことは、自分の仕事、自社に重要なKPIを作り出すことです。もちろん計算式と分子分母の範囲も明確にしなければなりません。KPIはできるだけ定量化して数字で測定できるようにする工夫が成功するかどうかの文字通り鍵(Key)となるでしょう。
6.3 KPIはPDCAで達成
KPIは、一定の期間に達成すべき目標値を設定することが必要ですが、それを達成するための活動は、PDCAで実行することが望ましいと思います。
以下具体的に活動する一例を示します。
(1)Plan :計画
達成目標を明確にして、その具体的な活動計画を立案します。活動の具体的な内容、担当者、日程、完了予定日などを計画することです。次に示すのはその一例です。

(2)Do: 実施
活動計画にもとづき、実行に移りますが、さらに具体的な実行計画を作成することも必要になります。次はその例です。

(3)Check :結果の確認
KPI活動に限らず、すべての企業活動はその進捗を適時適切な時期にチェックすることは当然のことです。しかし、これがなかなか確実に行なわれていません。
おすすめしたいのは、PlanやDoで作成された計画表や日程表を利用することです。下記はその一例ですが、このようなガントチャートはよく使われます。対策項目の着手日から完了日まで毎日の進捗を記録していくことです。そして、何が遅れているか、何が問題なのかなど把握して、その改善や解決を図りながら進捗を管理することです。そして、最終的な結果や成果を測定、検査して、目標との比較を行ない(差異分析)どの程度達成出来たかどうかを正確に把握しなければなりません。
次に示すのは進捗管理の例です。

ガントチャート(Gantt chart):
ガントチャートは、米国のガントが考案したといわれているもので、いろいろな日程を目に見えるようにした図表です。縦軸に作業項目、横軸に日にちや年月を示して、棒線で開始と完成日を示すようになっています。この図はわかりやすいので、よく使われています。 |
(4)Action 次のステップへの行動
KPI目標が達成出来なかったり、活動の過程で新たな問題や課題が生じたりした場合、再度Planを作成して、新たな活動に取り組むことです。すなわち、「PDCAのサイクルを回す」活動が望まれます。継続的に問題解決や改善活動に取り組むことは、企業の永続的な存続には欠かせないことです。
6.4 KGI
KPI活動の目標をKGI(Key Goal Indicator :主要業績評価目標 )ということがあります。またターゲット(Terget)もよく使われる言葉です。一定期間に達成すべき目標値ですが、個別に設定すべきではなく、企業の全体の活動目標と関連づけることが必要です。詳細はここでは省略してあります。
6.5 KPI取り組み事例
ある企業からKPIの取り組みについて問い合わせがありましたので、一例を示します。中小企業を訪問して「工場は儲かっていますか」とか、「どの製品の利益が大きいですか」と聞くことがありますが、すぐに答えることができるようにしたいものです。

ここで重要なことは、製造原価計算システムが企業で構築されていることです。同時に、企業の生産活動が正しく記録されることが必要です。最近は、紙に記載すること以外にタブレットやパソコンに直接入力できるようなITの活用が多くなっています。さらにIoTの導入がこれからの課題です。工場で使用する設備、生産工程、部品などに各種のセンサーを取り付け、直接にデータを取得できる手段に変えていかなくてはなりません。
7.ロボットが製品をつくる自動化
人手不足や賃金上昇は、これからも続くと思われます。これは中小企業においても従来とは違った新たな取り組みが必要になってきているといえます。その対策の一つとして「省人化」があげられます。部品加工や製品組立の機械化、ロボット化を進め、機械が製品をつくる「自動化」を図っていくことです。従来以上にその比率を高めなければなりません。設備資金も必要になりますから、中長期の経営計画のもとに進めていくことになると思います。
賃金上昇の激しい中国自動車メーカーの経営者は、早くから(2008年に技術支援した企業など)日本の自動車メーカーと同じようにロボットを採用した生産ラインを導入しています。新設の工場は日本のラインと全く同じと言っても過言ではありません。中国では「人手を使わない生産でないと生き残れない」と経営者は考えているようです。異常とも思える急激な賃金アップは、中国の競争力を弱めていくことにつながります。人手を要するものづくり製品は、もはや中国進出は採算が取れなく、むしろ撤退する道しかないかもしれません。
なお、「人手を省く」を広義に解釈すれば次のような対応策が考えられます。
@採算性の悪い製品の生産中止又は廃止
A外転化(外注生産)
B海外生産
Cその他(委託生産など)
「どこまで円安になるか」というリスクの高まる中で、海外から日本国内生産に移管するという生産環境の変化にも注目していきたいものです。人手不足や賃上げが課題となる中で生産効率の向上や自動化はこれから一層取り組む課題となっています。
8.標準時間の設定と活用
8.1 標準時間とは
部品加工や製品の組立作業など、熟練作業者が定められた標準作業を行なうに必要とする作業時間を標準時間(Standard Time)としています。標準時間の設定は、正味作業時間と余裕時間に分けて行ないます。さらに、正味作業時間の設定に当たっては、それぞれの作業を要素作業に細分化して、その所要時間を測定又は時間基表(タイムテーブル)から求めるものです。要素作業では、その作業を制約する条件を明確にします。例えば、移動する距離、重さ、大きさ、置き場所などの高さ、掴みにくさ、危険性(鋭利な物)などです。このような制約条件がある作業の場合は、それにかかる(必要とする)時間を付加することになります。
標準時間:
標準時間の算定にはいろいろな手法があります。よく使われるのは作業時間を測定する「ストップウォッチ法」ですがレーティング(Rating)など技術的な手法が必要です。さらに専門的な技法であるPTS(既定時間設定法:Predetermined
Time Standard)が使われます。WF(Work Factor)法はその代表的な技法です。PTS法は、作業時間を測定するのではなく、作業手順や作業条件などから作業時間を設定できるようになっています。 |
8.2 余裕時間
一日の作業時間の中には、作業を行なうことのできないいろいろな事態が発生します。このため、標準時間に余裕時間として付加しています。
@作業余裕
作業中に作業を止めて行なう給油、点検、治具などの小修理や調整、材料や部品の不良品の除外、ネジ類の落下、加工品などの測定検査、保護具の交換、作業場や作業台上の汚れの拭き取りなどさまざまな短時間の停止が不規則に発生するので、これらを「作業余裕時間」として取り扱うものです。なお、定期的な点検修理や長時間の停止はそれぞれ「間接時間」として取り扱います。
A疲労余裕
作業場の環境により生ずる、高温や低温、高湿度、高熱、粉じん、騒音、照明、緊張(注意力)などの要因によって、作業速度の遅れや一時的な停止、短時間の休息を要する場合などに、これらを疲労余裕として時間を付加するものです。
B用達余裕
作業中の汗拭き、水飲み、用達しなど生理的な要因で作業中断が起きるので、これを用達余裕として付加します。
C職場余裕
前後の作業工程の遅れによる手待ち、部品や材料の欠品、作業不良発生などによる短時間のやむを得ない作業停止が生じることがあるので、これを職場余裕として付加します。なお、長時間のライン停止や設備機械の故障、各種の手待ちは「間接時間」として取り扱うことが多いですが、これも企業で具体的に規定すべきです。
D余裕率
いろいろな余裕時間は正味作業時間に付加しますが、その方法として余裕率を設定しています。余裕率は企業により定められますが、一般的には20%〜25%が多いようです。従って、ある作業の正味作業時間が10分であれば、余裕時間は2分(余裕率20%の場合)となり、標準時間は12分ということになります。
8.3 標準時間の設定方法の概要
標準時間の設定方法にはいろいろな手法が考えられています。どのような方法で標準時間を設定するかは、各企業で具体的に規定しなければなりません。
@実績時間法
過去の同類の作業の実績時間を参考にして、標準時間を設定する方法です。繰り返して行なうことが少ない作業、精度が低くても良い作業、標準化ができない作業のような場合などに適用されるものです。
Aストップウオッチ法
作業者が行なう作業を直接(又はビデオ撮影した作業)観測しながら、ストップウオッチ時計で作業時間を計測する方法です。この場合、作業者の熟練度や作業スピード(故意に作業を遅らせるケースや作業者により作業の速度に差異が見られる)などから、測定時間に大きな差異が生じます。従って、熟練作業者が行なうレベルに補正する必要があります。これをレイティング(Rating:平準化)といいます。レイティングは専門的な技法が必要になるので、ある程度の訓練を要します。
B既定時間標準法
この手法は、PTS(Predetermined Time Standard)法と呼ばれているもので、日本語では動作時間標準法ともいいます。この設定方法は一つの標準作業を「要素作業」にさらにそれを「基本動作」レベルに細分化して、その動作に応じて別に定められた時間値を適用して、標準時間を設定していくものです。基本動作は1万分の1分単位で設定されます。また動作の制約条件には、身体のどの部位(指、腕、胴体など)を使うかで時間値も変わってきます。
次にその概要の一例を示します。  |
PTS法にはいくつかの手法がありますが、主にMTM(Method Time Measurement)法とWF(Work Factor)法が使われています。これらの手法は専門的になるので、興味のある方は講習会を受講したり、専門書を参照してください。
なお、標準時間の設定は、上記の要素作業毎にタイムテーブルを作っておくと設定作業が楽になります。各企業や職場の作業の内容に応じて標準時間設定のタイムテーブルを作成して、標準時間の活用を図りたいものです。
8.4 標準時間の活用
標準時間の設定ができれば、この時間を用いていろいろな計算ができます。
@.工場全体や職場の所要人員の算出ができる
A.生産性(能率など)の尺度として活用する
B.作業者の熟練度の把握や作業者の訓練に活用できる
C.ムダな作業の改善、作業の時間の短縮ができる
D.仕事の成果や業績評価が客観的でき、昇級や賃金などに反映できる。
<活用事例> 作業の熟練度
作業の熟練度は、下記の式で算出できます。ただし、作業は、標準作業に基づくこと、出来映え(品質)は合格できることが前提になります。
熟練度(%)=(作業の標準時間÷作業者の作業時間)×100
但し、作業者の作業時間=作業の測定時間+(測定時間×余裕率
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