ものづくり工場の問題と解決事例 
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事例 3.中国自動車組立技術支援
自動車組立作業 

 中国の2014年の自動車生産台数はおよそ2、370万台となり世界一となりました。賃金の上昇など国民の所得の増加もあって、国内の需要は旺盛ですが、日欧米の自動車メーカーも進出しており、積極的な売り込み攻勢をかけているので、生産販売競争はこれから激化の一途といっても過言ではないと思います。特に、中国資本の自動車メーカーは、海外自動車メーカー製品品質に追いつき追い越すのに躍起となっています。生産設備も自動化を図り最新のロボットもどんどん投入し、品質、価格競争に負けない車づくりに邁進しています。



1.中国自動車生産技術の発展は目を見張る

 中国との関わりは、現役時代の1973年に始まりました。当時の中国企業は国営で、従業員の中に女性も多かった記憶があります。自動車は大型トラック、バスが大半で乗用車は少なく、ただ一部海外自動車メーカーと生産を行なっていました。当時の日本メーカーは完成車を輸出するのがやっとでしたが、中国は完成車の輸入と引き換えに自動車製造技術の供与を義務付けるという方針(技貿結合と呼ばれました)が出されました。当時、中国との厳しい完成車の輸出商談がまとまり、これに関連して、長春第一汽車(吉林省)に自動車技術を供与することになりました。この業務のため、北京や長春を行き来するようになり、以来中国との関わりがだんだんと深くなっていきました。
 当時、「万元戸」と呼ばれる所得の増えた農家が現ナマ片手に車が欲しいと工場にやって来たという話も聞くようになりました。この頃から中国各地から自動車の生産を始めたいという希望が殺到していろいろな「中国プロジェクト」がスタートしました。ただ最も大きな壁は、現地化率(中国での国産化率)が100%であることでした。
 中国の自動車生産台数を振り返えりますと中国の自動車産業は驚くほどのスピードで発展してきました。昭和40年代の日本の高度成長期に匹敵する生産の伸びを示しています。


       (注) 生産台数は、2019年までのデータを追加で掲示しました

2.試作による品質確認と不具合点の改善
 
中国での技術支援の一例を述べますと、その代表的な事例は新車の試作段階の品質向上支援です。新車の組立作業手順や治具仕様、組立精度をチェックしながら、部品精度の問題点を確認し改善していくという取り組みです。 
 例えば、車体組立工程では、検査具による品質の確認やレイアウトマシン(Layout Machine:三次元測定機)などで数値測定します。サブ組立部品により数100点から1000点を超える測定ポイントがあります。この測定ポイントは、XYZ軸の3次元数値で表示して、検査規格の範囲内なら合格、範囲外なら不合格となります。この時の合格率がその組立品の品質(精度)を表すことになります。試作作業を通じて問題点検出し、その改善を図ることによりこの合格率を高めていきます。なお、この合格率は企業の技術力の高さを示すともいえます。

 海外工場の車体組立作業
     試作作業(現場作業者者と共に)
三次元測定機
    Layout Machine

Layout Machine:
 自動又は手動で部品や組立品の寸法を3次元測定するものです。この測定値によって、設計値や公差の範囲にあるかどうか判別できるので、測定品の精度や合否が明確になります。よく問題となるのは、生産工程の組立基準位置と測定基準位置が一致していない場合があることです。測定値が全く変わってきます。測定基準と組立基準を同一にすることの重要性を理解させるのに苦労しました。 

3.課題は品質向上
 中国の現地資本の自動車メーカーは、生産する自動車品質を、なるべく早く外国企業合弁会社製の自動車品質レベルに追いつこうとしていますが、まだまだ満足できるとはいえない部分も少なくありません。下記項目は、現地指導で問題点として取り上げ、改善提案を行った事例の要点です。下記の内容はすべてがそうなっているということではなく、問題が発生した原因分析の結果の一例であることに留意してください。

 車体精度が不安定(ばらつき) ・車体設計が精度を確保しにくい構造、組立工法となっていること。
・組立治具仕様や製作精度が不十分なこと。
 プレス部品精度が不良 ・精度測定基準を変えると精度が出ていない。(例:取り付け穴位置基準では形状が合わない、形状を基準とすると穴位置が狂っている。)
・検査具(Inspection Gauge)が無い。あるいはその製作精度や仕様が良くない。
 現場における改善が置き去り ・治具の改善(変更)にはお金がかかるので放置や無視している。
・設備や治工具のメンテナンスが不十分である。
 (清掃、点検は、決められたことは行っている)
 計画段階での技術力不足 ・技術者は現場での生産技術経験が少ないため作業性、品質確保の視点が足りない。工程計画や組立治具の仕様などに課題
 (作業者の作業技能に依存する部品組み付け作業)
 社内外の連携が不足  ・品質不具合問題について関連する部署(外注を含む)との調整やフィードバックが不得手でかつそのフォローがない。
・外注メーカーの技術指導(品質改善指導など)ができていない。
 
  
今後、ものづくりの経験を積むことにより、急速に生産技術の実力をつけていくことだろうと思います。現場で働く人手不足の日本は、将来量産車の生産は中国に譲り、やがて中国から完成車を輸入することになるかも知れません。しかし、タイをはじめとする東南アジア諸国も自動車生産に力を入れているので、近い将来自動車輸出競争が激しくなってくると思っています。


4.中国でもロボットが活躍する時代
 スポット溶接ロボット
スポット溶接ロボット
 (出典:株式会社安川電機)
  中国の新しい自動車工場は日本と同じようにロボットが採用されて、従来のような大勢の作業者で生産する風景とは様変わりしています。工場の経営者曰く「文句も言わず、賃上げも必要なく、黙々と24時間働く」こんな作業者?はいないというわけです。中国の自動車工場も日本の工場設備と全く変わらなくなってきつつありますが、ロボットをはじめ自動化が進む理由の大きな原因は賃金の急激な上昇です。さらに、経済成長にともない中国でも期待するような人材(質)、人手(量)は限られてきています。これからも品質向上と合わせて、ロボットが活躍する時代が中国でも始まったと考えています。

 作業ロボット:
生産現場で使われるロボットは、産業用ロボットと呼ばれていますが、その種類はものづくり作業に応じてさまざまなものがあります。ロボットに組み込まれているプログラムを自由に書き換えて仕事を教えることができるようになっています。また、書き換えられないプログラムの場合は、専用機ともいわれて決めれた作業のみ行うものです。多量生産には安価な専用機が使われますが、多種少量生産には、ロボットが適しています

5.転職が常に頭にある技術者
 
現場で作業者といっしょに仕事をして感じることは、優秀な作業者がいる反面、作業技能や作業意欲の低い作業者も少なくありません。作業者の教育訓練の課題も多いように思います。また、信賞必罰は厳しく、少しでも仕事でミスがあると罰せられるケースも目にしています。したがって、技術者でも上司の目には常に気を配っているようです。これは上司の指示命令は絶対で最優先するということです。昇進や賃金も上司の匙加減になりますから、自然とそうなるのでしょうか?「上司は選べない」とすれば、本線から外されたら転職の道しかないことは当然のことになるというわけです。日本は「年功序列」部分がまだ残っていますから、これが「0(ゼロ)」になれば、海外並みに「労働の流動性」が高まっていくかも知れません。
 
海外国での転職の考え方は日本人と違い、むしろ転職は経歴に「箔がつく」ほど優秀な人材と見られています。特に中国は「賃金」を尺度にして、上昇志向が強いと感じています。

6.中小河川の汚染
 乳牛の群れ
 自動車工場は都会になく、地方の都市やその郊外にあるのが一般的ですが、大都会のPM2.5の問題のように、地方では河川の汚染が気になります。工場敷地周辺の排水路や生活排水の河川の汚染防止の対応が遅れています。排水規制など厳しい法規制はあると聞いていますが、企業独自で公害対策をするには、技術やお金が必要になるのでなかなか実施されないようです。したがって、政府予算や公害対策政策など公的な支援や指導がないと改善は、なかなか進まないのではないでしょうか?中国では公害防止の対策は喫緊の課題となっています。中国に進出される場合、環境条件(地域の自然環境や法規など)を現地調査して十分確認しておく必要があります

どちらが神さま?
 日本では「お客さまは神さま」ですが、中国では、つくる者(売り手)が神さまのように見えます。商品の品質は消費者がリスクを負うものという立場にあるようです。買った者は、それによって利益を得るからという考え方です。だんだん変わりつつあると思いますが、まだまだ中国には根底に横たわっているように思います。一方、支払いは、徹底的に先送りし、相手が根負けするのを待つという特技も持っています。コンサルタント料もなかなか支払ってもらえません。 




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